「父さん……ネサラ……」
「安心なさいましたか?」

一方、父と妹の抱擁を眺めるアルゾートの元に、ラクスがゆっくり歩いていった。

「ラクス――」
「大丈夫です、キラ。そんなに心配なさらないで」

にこりと笑ってキラを牽制すると、ラクスは再び、アルゾートとの距離を縮める。

「私もぜひ訊きたいです。貴方の守りたいものとは、一体なんなのですか?」

それはカガリが、アルゾートに問いた言葉。

「思いを託すのは、とても大切なことだと思います。けどこれは、託して良い問題でもないですし、そもそも『託す』とは言いません。『背負わせる』です」
「背負わせる……だと?」
「ええ」

ラクスはきっぱり言い切った。

「残される方の思いを、貴方は少しでも省みましたか? 貴方がなさろうとした事は、貴方にとって正義でも、大局を見れば大いなる『悪』です。残された方は、貴方に責任を『背負わされる』方は、そんな状況で貴方考えた『正義』のために生きなくてはなりません。それがどれほど困難な道のりか、考えたことはありますか?」


考えたことがあるか――と訊かれれば。
何度も何度も考えた――と答えたい。


考えた。必死に考えた。
これ以外の道が無いか、たくさん考えた。
父親はコーディネーター擁護派。島の政治家連中も、オーブ本土に良い顔をしたくて、半言いなり状態になっている。
だから――やはりこれくらいの実力行使が必要だ、という結論に至って。


考えた――けど、考えていない。
自分達が行動した後の、自分達の意思を継ぐ者達のことを。


そもそも、継がせるために現場に連れてこなかったネサラがこの場に居る。
この時点で、確実に意思を受け継いでくれる人間は居なくて……


「貴方がやろうとしていることは、ただの責任放棄です」


迷うこともなく、ラクスは言い放つ。


「これは、貴方が始めたことでしょう? なら、貴方が責任を持って終わらせるべきです」


手を添えて。
祈るように。

踏み留まるように――


「ねえ……」


後ろから、ミリアリアも懇願する。

「これ以上、カガリを泣かせないで……」

言われ、部屋を見渡せば、彼の凶行に涙を堪えられなくなるカガリがいる。
ネサラが生きてて安堵したのか、彼女を離さないグラムハが居る。
部屋の中の仲間達も、不安げな眼差しで彼を見ている。


そう。
彼は思い出した。
自分が一体、何をしたかったのか。
何を『守り』たくて、コーディネーターを排除しようと考えたのか。



「教えてください。貴方は何を守るために、ここに来たのですか?」



再び、ラクスの問いかけが響き渡った。




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