「これで、兄さんは何も言わない」 「……ネサ、ラ……まて」 「大丈夫、兄さん。私、全然怖くないから」 自分の存在が、兄の足枷になるのなら。 ――自分を消してしまえば良い。 そう、彼女は考えてしまった。 「母さんの仇、とってね」 ゆっくり、引き金に手をかける。 深呼吸をする。 イザーク達は――やはり、動けない。下手に動けば、彼女はすぐ、引き金を引くだろう。 そうしたら、もう誰にも止められない。 誰も、引き返せなくなる。 そんな中、一人だけ動いた者がいた。 彼は驚くべきスピードでダッシュをかけると、彼女が行動に移す前に、銃口を天井へと向けさせる。 「やめろと言ってるのが、何故分からない!!」 銃口そのものを握り、叫ぶのは紺色の髪の少年。 ――アスランである。 非難し続けた、コーディネーターであるアスランに止められ、ネサラは呆然としてしまった。 「なんで……」 信じられないよう、彼女は呟く。 「なんで、コーディネーターがナチュラルを助けるの……?」 「そんなもの、関係ないだろう!」 ネサラには、アスランの怒る理由が分からない。 コーディネーターに助けられるなんて、彼女としては思ってもみないことで。 頭がついてこない。 そんな混乱状態の中、もう一人、グラムハがネサラに歩み寄った。 呆けた瞳の娘に対し、彼は――心持強めに、頬を叩く。 おかげでネサラは、もっと呆けてしまった。 父親に殴られるのも、初めての経験で。 「……すまない」 小さな呻きと共に、グラムハはネサラを抱きしめる。 「こんなに……ここまで追い詰めてしまって……」 それは、父の懺悔だった。 |