誰にも被害のないよう処理しなければ――アスランはとっさに銃を後ろに投げ、飛んでくる手榴弾へと走った。

「ディアッカ!!」
「言われなくても――」

それは、スローモーションを観ているかのようだった。
銃を受け取ったのは、物陰から突入の機会を窺っていたディアッカ。アスランが彼を指名したのは、すぐ傍にいたのも理由の一つだろうが、何より彼が、射撃能力に長けていたから。でなければ、射撃専用のMSになど乗れやしないだろう。
試験の結果等を見ればアスランやイザークの方が成績は上でも、こと「射撃」において、実績で彼に敵う人間はこの場には存在しない。

アスランが手榴弾を一瞬だけ手にし、開け放たれた窓へと投げつける。
銃を受け取ったディアッカが、外に飛び出した手榴弾を打ち抜く。
その瞬間、窓の外で大きな爆発が起こった。


ものの二、三秒の出来事である。


「な――!!」

驚きの声は、手榴弾を投げた張本人・クルガから巻き起こった。
相手に投げたものが、自分の横を通過して、後ろで大爆発――まさに予想外以外の何者でもない。
しかも、彼にとって信じられない現象は、まだまだ続く。この「手榴弾処理」を隠れ蓑に、イザークとディアッカが部屋に中に転がり込み、彼の周りの造反員を全て倒してしまったのである。


「この程度で武装勢力とは、情けないな」
「くっ……」


ほぼ一人でなぎ倒したであろうイザークは、汗一つかかないまま、クルガの腕を捻り上げた。
これでもう、反抗出来る人間はいない。
安堵して――数人を沈黙させたディアッカが、両手をパンパンと払い様、じと目でミリアリアを睨みつける。

「つーかミリアリア……お前、何でここに居んだよ! びっくりすんじゃねーか」
「良いじゃない! こっちにだって、色々都合あるんだから」

本当に驚いたであろうディアッカから、ミリアリアに文句が生まれる。
そりゃそうだろう。マルキオとラクスの救出に来たはずなのに、居るはずの無いミリアリアが、思いっきり巻き込まれているのだから。
心中穏やかでいられるはずが無い。

「後でじっくり話し訊くからな」
「分かってるわよ……」

二人のやり取りに、カガリも頬を緩ませる。
しかし、気を緩ませるのは――早すぎた。

「終わりだな」
「……終わり? どこがだ?」

アスランに銃を突きつけられるアルゾートは、笑顔だった。
失敗したと思われた手榴弾攻撃は――ある意味、成功したのだ。


アルゾートの迷いを吹き飛ばすには。


そう。彼はあの衝撃音で、自分のやるべきことを思い出した。




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