「まさか導師様、道に迷われたのでは……」
「従業員の案内付きでか? 無いだろ」
「市長の到着が遅れてるんじゃないですか?」

二人の心配を他所に、ミリアリアはあっけらかんと呟いた。
そろそろ着く、という言葉と共に、マルキオは部屋を出ている。だからミリアリアの言い分も、あながち間違ってはいなさそうなのだが――

「失礼するよ」

ノックと共に現れた男性が、彼女の楽観姿勢を覆させた。
見た所四十代半ば。中肉中背の男である。彼と面識が無いのは、ミリアリアだけ。
ぽかんとする彼女を横に、ラクスが立ち上がった。

「市長、わざわざお出で頂き、ありがとうございます……ところで、導師様は……?」
「マルキオ様? いや、知らないが……どうかなされたか?」

扉を開けたのは市長・グラムハ。しかし、現れたのは彼と数人のSPだけで、迎えに行ったマルキオの姿は無い。
途端に、ミリアリアは嫌な予感に襲われた。

「知らないって……お前を迎えに行ったんだぞ?!」
「お――?! な! なな、なぜ貴方がここに……」
「――端的に表すなら、お忍び旅行だ」

一方カガリは、市長の言葉に憤慨し、噛み付くも――大して悪意の無い反撃を受け、押し黙ることになる。
はっきりしていることは唯一つ。マルキオがいない。

「とにかく、探そう。ホテルからは出てないはずだし」
「ええ」

カガリの号令と共に、ミリアリアが立ち上がる。ラクスもまた、無言で力強く頷いた。
しかし、走り出そうとして――足が止まる。
グラムハと共にやって来たSPが、扉に背を着け、ラクスに銃を向けていて。

彼女の顔が、真っ青になった。

「貴方……あの時の……」
「さすがに覚えていますか」
「貴様、何を考えている!!」

グラムハはとっさに、ラクスの前に立った。
守るように。

「銃を下ろせ! この方は――」
「ラクス・クライン。プラントの歌姫でしょう? それが?」

にやりとSPが笑った。
信じたく無い。信じたくないが、これは――……

「まさかお前、レテスの涙なのか……?」
「俺だけじゃない。ホテルにいる人間は、全てレテスの涙で構成させてもらっている」

SPの言葉が、その場の空気を凍りつかせた。
なら、マルキオは――?

「導師様はどうした!!」
「そんな大声出さなくても、とって食いはしませんよ」

その声は、SPの後ろから響いた。

「さっきの従業員……」
「こんなホテルマンの格好をしているが、一応[レテスの涙]のリーダーだ。まあ、長い付き合いにはならないだろうが、よろしく頼むわ」

SPが左に避け、十代後半の青年が姿を現す。その瞬間、カガリの顔は凍りついた。
確かに、ミリアリアが言うよう、さきほどの従業員の声だと思う。しかしカガリはあの時、死角になって、彼の顔を見ることはなかった。

それは向こうも同じこと。
堂々と現れた青年は、目を見開く金髪の少女を視野に入れた瞬間、叫んでいた。

「――カガリ・ユラ・アスハ?!」
「なんで……アルーが……?」
「やはりお前が主犯か、アルゾート」

互いに驚きあう二人。
現れた主犯に苦い顔をするグラムハ。
その光景に驚く、周りの人間。


今、時間は動き出した。




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