「……なぁにが『青き清浄なる世界のため』だよ、ったく……」

そこには、面倒くさそうに呻くディアッカの姿があった。

「ボーっとするな、ディアッカ」
「分かってるって……」

小声でアスランに注意され、ディアッカは前方に注意を戻す。
そこあるのは、海辺の建物。たいして大きくも立派でもないが、例えば地元も少年達が、友人間で集まったりする場所――としては、かなり使い勝手の良さそうな物件である。
数分前、キラに声をかけた女性・ネサラは、あの中に入っていった。

自分達を「VIP」と呼んだネサラ。多分、無意識にそう言ってしまったのだろう。
反政府組織[レテスの涙]は、皮肉も交え、コーディネーターを[VIP]と呼称している。
つまり彼女が、[レテスの涙]の一員である証――

「聞こえるか?」
「……ここからじゃ、無理だな」

彼らが海に行ったのは、このためである。
[レテスの涙]の拠点は、沿岸部にある確率が高い――市の方も、ようやく組織について把握し始めた所で、この情報自体どこまで信用できるか分かったものじゃなかったが、しかしこれ以外に、キラ達がすがれる情報は無い。

駄目元で、探してみようと思った。
都合よく[レテスの涙]は若者たちで構成されている。なら、沿岸部で情報収集をすれば、ぼろを出す人間がいるかもしれないと考えて。


そして彼らは、ターゲットを見つけた。


「仕方ない……もう少し近付くか……」

様子を探ろうとするアスランとイザークが、中の人物に気づかれないよう、建物に近づく。
一足遅れ、ディアッカとキラも、二人に続いた。
壁にぺたりと張り付いて……ようやく、中の声が聞こえてくる。

「…………は…………か。で……だな」
「……という…………それが…………」

断片的に、少しずつ。耳と意識を研ぎ澄まし、四人は会話を聞いた。

「……いじょうぶかしら……外にも、コーディネーターが居たけど……」
「外? どこだ?」
「ビーチよ。何も知らないで、遊びに来ていたわ」

聞こえる声は二つ。人の気配は……四つ。

「……おかしいな……」
「ああ」
「……何が、おかしいの?」

一人状況についていけないキラが、申し訳無さそうに口を開く。

「俺は襲撃犯の姿、しっかり見たわけじゃなかったけど……四人じゃないよな?」
「最低六人。それ以前に――話を聞く限り、たった四人で動いてる組織とは思えない」

ディアッカが怪訝そうに言い、しっかり相手と対峙したアスランもまた、頬から一筋の汗を流し、呟いた。
嫌な予感がする。
心臓に、押し潰されそうな苦しみが襲いかかる。
そして。

「んじゃ、そいつらの慌てる顔でも見に行くか?」
「いいねえ、それ」
「びっくりするだろうな〜。自分達の泊まってるホテルが爆発したら」

中から響く言葉に、四人の頭は真っ白になった。




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