「私は……この島で、導師様が動かなくちゃいけない事態が起こっている……と思ってました」
「例えば?」
「この島に、平和を壊そうとしている人がいる……あるいは、それに連なる人、阻止する力を持つ人。それで、事態打開のために導師様が出向いたのではないか、と」
「それじゃお前、私の話、全然信用してなかったのか?!」

話の最中、カガリが茶々を入れる。
立ち上がって。
憤慨して。
しかしミリアリアは、至極冷静に、カガリをやり込めた。

「だってカガリ、嘘ってバレバレなんだもん。だから、ジェット機の中で色々考えてたんだけど……やっぱこれが、一番しっくり来るかな、と。違う?」
「う……」
「さすがです、ミリアリアさん。大体そんなところです」

ラクスが淹れたお茶を飲みながら、マルキオは続ける。

「この島において、我々はVIPなのですよ。だから、VIPらしく、専用のホテルを用意していただきまして……それで、このホテルには我々しか宿泊客がいないのです」
「VIP?」
「はい。事態は、私達が把握していた以上に進んでいたようで」

落ち着いて。緊迫感など微塵も出さないマルキオ。しかしその隣に佇むラクスは、彼の言葉に目をそむけた。

「結論から言いますと、私はレテスティニ市長・グラムハ氏からの要請を受け、孤児院の視察、という名目で、ここまで来ましたが、本来の目的は、反抗勢力の鎮圧です」
「レテスティニ島は観光資源で財を潤す島。こういった類の風評は、大ダメージに繋がりかねません。ですから市長は、カガリさんや閣僚の方々ではなく、平和の尽力者であるマルキオ様に、助けを求めたそうですわ」

静かに、ラクスも呟く。
この島に限らず、どこでも同じことだが……島の治安に少しでも傷がつけば、それだけで観光客は減りかねない。市長が隠したいのも最もだ。

「私が島の現状を視察し、姫様に伝える」
「その後はじめて、私が動く手筈になってたんだが……ホテルをこんな貸し切り状態にして、逆に目立つんじゃないのか?」

そう、話を聞く限り、彼らの行動は目立ってはいけないはず。
だから護衛も少数と考え、護衛には見えない若者――ということで、ディアッカ達が選ばれた、という話になるはず。
なのに、これは――

「我々は、篭の中の鳥……と言ったところでしょうか」
『鳥?』
「下手に動けないのですよ。際どい犯行声明が出されてしまって」

ここでようやく、マルキオの顔に陰りが生じた。
例えるなら、深い悲しみ……

「思いのほか、『ラクス・クライン』が有名人だったようです」

言うはラクス。自分の事なのに、まるで人事のように紡ぐラクスの顔に、笑みは無かった。

「ラクス、が?」
「どういうこと?」
「ラクス殿が、狙われました」
『?!』

それだけでも、二人は言葉を失ったのに――


「彼らは――反政府組織[レテスの涙]は……ブルーコスモスの志を持つ者で構成されています」


続くマルキオの宣告は、ミリアリアとカガリの頭を真っ白にした。




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