フレイ



赤い髪が揺れる。虚ろな足取りでAAをさ迷うは――フレイ。
キラがいない。
カズイは言う。MIAだと。キラは死んだ、と。

信じられない。
キラが死んだ?
父を殺したザフトを討つ。キラはそのための、復讐の道具だった。

コーディネーターのキラも、最終的に戦って死ぬ……それが望みだったはずなのに、どうしてこんなに苦しいのか。



だから言ってやった。

「コーディネーターなんて、みんな死んじゃえばいいのよぉっ!!」

ザフトの捕虜を目の前にして、銃を向けて、叫んでやった。

まるで――自分に言い聞かせるように。

キラはコーディネーターなんだから、死んで当然なんだ。
悲しむ必要なんて無い。目の前にいる捕虜が憎いのは、キラを殺した仲間だからじゃなくて、父を殺したコーディネーターだからなんだ。
そうやって、言い聞かせて――

「違う」

同じように捕虜兵を殺そうとしたミリアリアの言葉が、心臓に突き刺さる。

――違う?
何が違うの?
自分だって殺そうとしたくせに。
今更1人だけ良い子のフリをするミリアリアが、どうにも許せなかった。


……この時は。



だからこの後、ミリアリアとは顔すらまともに合わせていない。

「…………」

新たな『白』の連合服を身にまとい、フレイは宇宙を見ていた。
視界の端には、巨大な宇宙船も入っている。

月基地に停泊するドミニオン。
彼女はこれから、この戦闘艦に乗務する。戦場に出れば、死と隣りあわせだ。生きて帰れる保障は無い。

でもフレイは戦場に出る。
分かってしまったから。
みんなに酷いことをした。酷いことを言った。
戦闘中も、ただ1人部屋で怯えていたフレイ。
でも他のみんなは、ブリッジで、戦場で、戦っていた。
1人だけ、無残な光景から目を背けて来た。

逃げていた。

でも、これ以上逃げるわけにはいかない。
キラが生きていた。
キラに会うためには、戦場に出なければならない。
たとえAAと戦うことになっても、接点は戦場しかない。

なら、行くしかないのだ。

少しで良いから、キラと……いや、キラだけじゃない。サイ、カズイ、ミリアリア……みんなと話したい。

誰とも戦いたくない。
誰も死んで欲しくない。

それでも、フレイは戦場に行く。
自分が傷つけてしまった仲間達に謝りたくて。
許されなくて良い。
ただ一言、謝りたい。



それすら、かなわぬ夢物語だとしても。



「……ミリアリア……」

AAを思い出し、無意識にフレイは、その名をつぶやいていた。

「違う」

今なら分かる。ミリアリアが言った、あの言葉の意味が。

大切な人を失えば、悲しいし、苦しい。憎しみだって生まれるだろう。
でも、奪ったのがコーディネーターでも、憎しみをコーディネーターに向けるのは違う。
フレイが大切なキラだってコーディネーターなのだ。
コーディネーターだから憎い、それは違う。

キラが生きていた――その事実が、フレイの中に封印されてきた、本来の優しい彼女を目覚めさせたのかもしれない。

思い馳せるは、ヘリオポリスにいた頃の自分達。
平和だった、幸せだったあの頃。
笑顔が絶えなかったあの頃。

……もう戻れない、あの時間。

そういえばミリアリアは……彼女はもう、笑えるようになっただろうか。

AAを降りる時、失われたままだった彼女の笑顔は、見る者を幸せにする、太陽のような力を持っていた。
取り戻していてほしいと願う。

でも――自分は。



フレイはまだ、笑えない――





-end-
結びに一言
ラスト一文のためだけに書きました。



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