山中



「ディアッカ、遅い!」
「……や、お前が体力あり余りすぎなんだよ……」

前方から大きく手を振るミリアリアに、ディアッカは大きなため息で答えた。
そこは山の中。高いところから戦場の風景を一歩引いた目線で撮りたい――というミリアリアからの要望により、二人は今、山を登っている。


<なんで山登りしてんだよ、俺……>


心の中でディアッカは呻く。
高いところから、と聞いた瞬間、彼はヘリを使うと思った。
そしたら、そんな予算など無いと返ってきた。
ゆえの登山である。

「ほらほら、ディアッカ! 見てよ、すごい!!」
「あー?」

何をそんなに喜んでいるのか――……不思議に思いながら彼女の横に追いつくと、そこにはディアッカの想像しない世界が広がっていた。
戦火を撮りに来た二人。しかし、彼らの目が映すのは、山々と、その間から見える海と、光が生み出すコントラスト。
まさに、絶景――

「ね? すごいでしょ?」
「……たしかに……」

苦しみ。悲しみ。命のやり取りを撮りに来た二人。もう少し進めば、線化が見えてくるだろう。
しかしここは。
この場所は……荒む心に安らぎを灯す、癒しの風景を映していた。





-end-
結びのコトバ
一寸先は闇。表裏一体、紙一重の世界。荒廃する世界の傍に、とても綺麗な絵図もある…みたいな。

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