ラクス



「戻ら……なくちゃ……」

涙を流しながら、キラは呻いた。





トールを奪われ、狂乱の中で戦った挙句、イージス自爆によって大怪我を負ったキラは、マルキオ導師に命を救われた。彼の力でプラントに運ばれ……今、ラクスから手厚い看護を受けている。
おかげで、身体の傷は全快した。
問題なのは……心の傷。


「トールは死んで……僕は生きてる……」


それが彼の口癖だ。
この言葉を聞く度に、ラクスは心を痛めてきた。

トールはキラの友達。
トールを殺したアスランも、キラの友達。
そしてアスランは……キラを殺すために、自らの機体を自爆させた。

「どうして、こんなこと、続くのかな……」

ある日、キラが自暴自棄に呟いた言葉が、彼女の心に衝撃を与えた。
誰に言ったでもない、ただ思った事が出ただけなのだろうが……心がざわつく。

「ならばあなたは、何故戦ったのですか?」

穏やかな口調とは違い、瞳は苛烈だ。
微笑みの中に眠る威圧感。
責めたいわけじゃない。どちらかと言えば……癒したい。
でも、たとえ戦争であっても、戦うことは命のやり取りに繋がるのだ。だからこそ、人は戦う意味を知らなくてはならないと、ラクスは考える。

「ぼくは……」

キラは嘆く。

「友達を、守りたかっただけなのにっ……」

フレイを。
サイを。
カズイを。
ミリアリアを。
……トールを。

そのために彼は、多くの命を奪ってきたのに。

「ぼくは……守れなかった……」
「キラ……」

ラクスは寄り添い、優しくキラを抱きしめた。

「あなたはとても、お優しい方なのですね」

優しい声が、温もりが、キラの心を少しだけ癒す。

「今日はもう、休みましょうか」

彼には休息が必要だ。
でも……いつかキラは、再び戦場に赴く。その予感が、ラクスにはあった。
守りたいから戦った少年だからこそ、守るため、再び剣を手にする時が来ると。

ほら、今も。

「戻ら……なくちゃ……」

夢を見ながら、彼は涙を流している。
戦うのは嫌でも、地球にはまだ、彼の守りたい人達がいる。

「……ならば私は、あなたを守る盾になりましょう」

少しでも彼のダメージを和らげる盾に。
その前に……まず、彼の新たな剣を調達しなくては。

キラの優しさが、ラクスを動かし始めた――





-end-
結びに一言
種だとキララクって、七国的には突然の産物だったので……自分補完(苦笑)



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