ディアッカ×ミリアリア



「ミーリアーリアー」

笑顔でディアッカが走ってくる。その姿を見るや否や、ミリアリアは「げっ」と顔を引きつらせた。

「……なんだよ、その顔」
「だって、あんたがそんな『ルンルン気分』で来る時って、決まって悪いことばっか起きるから」
「ルンルン気分って……」

おいおい、とこちらも顔を引きつらせていく。
まあ確かに、かなり浮かれたステップで来たような気はするが、こんな色男を捕まえて『ルンルン気分』は無いんじゃないか? と思ってしまって。

「で? 今日はどんな事件を起こそうっての?」
「なんだよー。良いこと起きる期待とかってねーの?」
「あんた、日頃の行い悪すぎるもん」

言われ、ディアッカは『日頃の行い』を思い返してみた。
彼としては、そんなに悪い行いを繰り返しているようには思えないが――

「昨日のケーキ事件、一生許してやらないんだから」
「や、それ、端っこちょっとだけ食っただけじゃん」
「あそこが一番美味しいのよ!!」

昨日、ディアッカはミリアリアと一緒にケーキを食べた。その際、先に食べ終わったディアッカは、ゆっくり食べていたミリアリアのケーキの一部分を、彼女の許可無く食べてしまったのだ。
元から機嫌の悪い態度を取られたのは、これが起因しているらしい。

「まあまあ、そう怒るなって。ほら、これやるから」
「? なに、これ」

渡されたのは、綺麗にラッピングされた二つの小箱。

「今日は何の日か覚えてる?」
「えーと今日は3月……あ! ホワイトデー!」

ということは、これはバレンタインのお返し――

「ありがとう、ディアッカ。開けて良い?」
「おう。ただ、開け方にコツがあるんだよなー、それ」
「ふーん」
「二つあるってことに意味があるんだよ。『あたり』と『はずれ』があってさ」
「へー」

ディアッカは自慢げに説明をしていき、ミリアリアは空返事をしながら包みを開けていく。
互いが互いの行動に注目しないまま、ただ自分の行動に一生懸命になった結果、悲劇は起きてしまった。

「でな、片方はとっても美味しいものが入ってて、片方は――」
「……なにこれ」

ミリアリアの冷徹な声が響く。
彼女の箱の中には、赤いクッキー達。
香辛料のきつい香り漂う、クッキーが数枚。
ミリアリアから、温かみゼロのオーラが飛び散っていく。

箱が二つあるのには理由があったのだ。片方は美味しいマシュマロ。片方は不味いクッキー。前者が『あたり』で後者が『はずれ』。ディアッカは、ちょっとしたゲーム感覚を味わってもらおうと、こんな贈り物を用意したのだが……そこの説明も無いまま、彼女は箱を開けてしまって。
いや、説明を受けても、結局こうなったかもしれない。なんせ今日の彼女は、機嫌が悪いのだから。

「ケーキの次は、ホワイトデーなんて使ってこんなふざけた事っ……!」
「み、ミリアリア……まて。落ち着け」
「落ち着け〜?!」

頑張って作った手作りチョコのお返しがこれである。
怒りの沸点は、簡単に越えてしまった。

「あんたが食え!!」
「!!!!!!!!!!」

叫び、ミリアリアはクッキーを鷲掴み、ディアッカの口へと押し込むのだった。





-end-
結びのコトバ
ディアさんのお返しクッキー……手作りです(笑)

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