ムウ*マリュー 「どうだ? 結構美味いだろ?」 「ほんと……美味しい」 マリューの向かいに座り、ネオは――ムウ・ラ・フラガは自慢気に笑った。彼女が今飲んでいるのは、ムウが直々に入れた、まさにムウ特製の紅茶である。 「市販の葉っぱで、よくここまで味出せたわね……」 「淹れ方だよ、淹れ方」 はっはっはっ、と笑うムウ。そんな彼を見て、マリューは目を細めた。 笑っているのに、どこか寂しさを感じさせる。 何か、悲しい過去を思い出しているような――…… 「マリューは、コーヒー淹れるのうまいよな」 「毎日自分で淹れてれば、ね」 「でもコーヒーだって、淹れ方一つで味変わるだろ?」 「まあ、そうだけど……私はサイ君のおかげね」 「サイの?」 「ええ」 紅茶を飲みほして、マリューは続けた。 「同じ豆を使ってるはずなのに、サイ君の淹れたコーヒーの方が断然美味しかったから、淹れ方教えてもらったの」 「へえ〜。結構技持ってるんだな、あいつ。これならプラント行っても通用するな」 「ムウ……サイ君は、システムエンジニアの技術研修でプラントに行くのよ?」 遊びに行くんじゃないんだから……と悪態をつき、マリューは時計を見た。 時刻にして、もうすぐ正午。 彼女の言う通り、サイは技術研修のため、しばらくの間プラントへ行く。 その出発が、今日なのだ。 「そろそろ、シャトルに乗った頃かしら」 頑張って―― 声に出さず、マリューはあたたかな目でエールを送った。 end ほのぼの〜にムウマリュ。 紅茶淹れ班とコーヒー淹れ班の夫婦話 - 53 /69- |