サイ



「……ミリィが捕虜に食事を運んでる?」
「うん」
カズイのもたらした衝撃情報に、サイは目を丸くした。



サイは……いや、サイとカズイは、出来るだけミリアリアと一緒に行動するようにしている。
トールを失ってからのミリアリアは情緒不安定で、一緒にいなければ、食事もちゃんと取ろうとしない。本当はキラも一緒に動ければいいのだが、何分彼は、モルゲンレーテに缶詰状態だ。
艦長の配慮もあって、ミリアリアの休憩時間はサイかカズイ、どちらかと重なるようになっている。

そしてそれは、カズイと休憩を取った直後に起きた――らしい。

「……本当なのか?」

言われた瞬間、サイは信じられなかった。あの捕虜はトールを殺した敵の仲間で、今までもAAを落とそうと攻撃を仕掛けてきた奴で……言ってしまえば、彼のおかげでいろんな命が奪われてきた。
おまけにアラスカで、ミリアリアは殺意を抱くほど、ひどいことを言われたはず。

なのに今、彼女が捕虜に食事を運んでいる?
にわかに――というか、全く信じられない。

「ほ、本当だって! ちゃんとこの目で見たんだから。ミリィが食事持って、拘禁室に入るの!」

疑いのまなざしを向けられたカズイは、必死に説明した。
サイだって分かっている。カズイは噂話で騒ぐのは好きだが、嘘を広めるような男ではない。だからこれは真実なんだろう。

「どう思う? ミリィのこと」
「は?」
カズイは――これまた理解不能な質問を飛ばしてくれた。

「だから、ミリィさ……捕虜に食事運んでるんだよ? 一体何考えてるんだろうね」

その瞬間、サイは全く同じ思いをカズイに向けた。
――お前は一体、何を考えているんだ?
何を思って、そんな不用意な発言をするのか。カズイの言動は、まるでサイに、ミリアリアのことを悪く言って欲しいように思えてしまう。

「……ミリアリアは、」
一度言葉を切ったのは、慎重なサイの性格ゆえ。
真剣なまなざしで、カズイを見る。

「ミリィは優しいから……どうせ誰かに頼まれたんだろ?」
「……うん……」
サイの気遣いなど何のその、カズイは自分で考えているよりも、数十倍は威力のあるだろう爆弾を投下してくれた。

「でも普通、殺そうとした奴に持っていく? ミリィはあいつ、殺そうとしたんでしょ?」

その時サイは、心に浮かんだ思いを封じ込めることしか出来なかった。
本気でカズイの人柄を疑う。それ以上に、仮にも友達に対してそんな感情を抱いてしまった自分も腹立たしかった。

「分からないよ、俺には……ミリィが何考えてるのか」

なおもカズイの演説は続く。本人はどう思っているか分からないが、少なくともサイにとって、彼の言葉は不快以外の何者でもない。
その場に居合わせたから――友達のことだから。
カズイとミリアリアも『友達』なのに、なぜここまで言えるのだろう。

「ね、サイ……」
「俺に分かるわけないだろ」
一通り聞き流した挙句、サイは適当にあしらった。それが分かってか、カズイはうつむき、また、彼を塞ぎこませたことに、サイも罪悪感を感じてしまう。

悪循環も良いところだ。
もう少しでも心に余裕を持つことが出来たら、カズイへの気配りを出来たかもしれない。カズイも、自分の言動に配慮することが出来たかも――いや、そもそもこんな感情すら、抱かなかったかもしれない。

激動する戦況。軍属にありながら、明確な居場所を失ったAA。

彼らもまた、心の拠り所を見失ったまま……





-end-
結びに一言
サイ編です。カズイが出張りまくってますが、サイ編です。ミリィがディアッカに食事を運んでいると知った二人、な感じで。



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