ミリアリア



――行かないで。


オレンジに染まる草原で、2人は戯れていた。
草々と同じオレンジ色のワンピースを着込んだミリアリアと、彼女の前を行く、連合の制服をまとった、優しい笑顔の男の子。

「トール!」

はしゃぎ、ミリアリアはトールに手を伸ばした。しかし、彼女の手をかすめる様に、トールは少しずつ離れて行く。

「……トール?」

空が朱色を形成する。赤い光の下、それでも少年は笑顔だ。
笑顔でミリアリアから離れていく。

あれ? と思う。
なぜトールは地球連合の軍服など着ているのだろうか。
自分は私服なのに。

「トール……」

嫌な感じがした。このままトールが、どこか遠くへ行ってしまうような。
予感――いや、予感ではない。

現実だ。

「行かないで、トール!」

手を伸ばしても、トールには届かない。
届くはずが無いと分かっても、伸ばされる手。
白く細い指先は、赤い虚空を凪いだ。



「……トー……ル……?」
気がつくと、手は上に向かっていた。さし伸ばされる先にあるのは、冷たい天井だけ。
AAの自室――ベッドの上。

「……寝て……た?」

時計はいつしか、夜中の1時を差している。
……久々に、眠れたのだろうか。
自分に問いかけるのは、寝た感覚が全く無いから。夢を見たということは、少しは眠れた、ということだろう。

そう。夢をみた。
トールの夢。
どこかも分からない草原で、2人きりの夢。

「……いかないで……ひとりにしないで……」

夜明けはまだ、遠い。





-end-
結びに一言
伝説の「AAの通路でディアッカ初遭遇」前夜あたりで。



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