レイメイ編



「…………え?!」

その瞬間、メイリンは顔を引きつらせてしまった。とあるデパートで可愛いワンピースを見つけ、試着室に入ったまでは良かったのだが、背中のファスナーを上げ、もう少しで首元にたどり着く――という所で、なんと金具が布地に噛んでしまったのである。
ほとんど着てしまった状態で、脱ぐことすら難しい。下手に扱ったら、生地を破いてしまうかもしれない。
それゆえ――引きつってしまったのだ。
どうしよう。誰か呼ぶにしても、どうやって呼ぶ? こんな姿で、しかも「ファスナー噛んじゃったんで助けて下さい」なんて――恥ずかしすぎる。

「…………」

ちらり、とメイリンは、店内と試着室を仕切るカーテンに目をやった。人影は見えないが、気配はちゃんと感じる。
傍にしっかり、彼がいる。ゆえにメイリンは、頭を抱えてしまった。
彼女が悩むのには、彼の――レイの存在も大きかったりする。今、メイリンはレイとデート中なのだ。早く戻らないと……と焦る気持ちが、不の心境に拍車をかける。

「……メイリン。まだかかるのか?」
「あ、うん。ごめん。もうちょっと待って」

なるべく平静を装い、メイリンは答えた。
そして――自己嫌悪に陥る。

待ってと言ってみたが、一体自分は、どれだけレイを待たせるつもりなのだろうか。自分ひとりじゃ、どうにも出来ない状態になっているのに。
ただボーっとしていても始まらないので、少しあがいてみるものの……やはり金具から生地が離れてくれる気配は無く。

「……あきらめよ……」

そう、一時の恥だ。一瞬だけ恥かしいのを我慢すれば――……
と考えて。

「……レイ、お願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「五分くらい、違うところで時間つぶしてこない?」

人を呼ぶにも、ここから――最低顔だけでも出さないといけない。そんな姿をレイに見られるのは、かなり嫌だ。だから、本題には触れず、やんわり告げてみたのだが、

「……俺は、邪魔か?」
「ううん、違う! 邪魔とか、そんなんじゃないの。ただ、その、ええと……」

言おうとして……言いよどんでしまう。
やっぱり、あんまり、知られたくない。
そんなメイリンの反応に、レイは小さく、吹き出してしまった。

「レイ、今笑った?!」
「笑ってない。ただ、少しおかしかっただけだ」
「それって笑ったんじゃないー……」

笑われたことにショックを受け、うずくまるメイリン。
何かもう、最悪だ。
するとレイは、

「冗談だ。少し離れてるから、その間に何とかしろ」
「何とかって……」
「とりあえず、店の人間だけは呼んでくるから」
「!!!!」

カーテンから人の気配が遠ざかる。
レイが離れた証。
そのレイは、どうやら何も言わなくても、中の状況を――音とメイリンの反応だけで――察知してしまったらしく……

「…………どんな顔して会えば良いのよ……」

やっぱりメイリンは、頭を抱えてしまった。




-end-
千里眼レイ降臨。



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