シンステ編 「…………?」 その瞬間、ステラは小首を傾げてしまった。とあるデパートで可愛いワンピースを見つけ、試着室に入ったまでは良かったのだが、背中のファスナーを上げ、もう少しで首元にたどり着く――という所で、なんと金具が布地に噛んでしまったのである。 ほとんど着てしまった状態で、脱ぐことすら難しい。下手に扱ったら、生地を破いてしまうかもしれない。 それゆえ――小首を傾げてしまったのだ。 どうしたものか、と。 破ったら、きっとシンが悲しむ。このワンピースを着てみたら? と言ったのもシンなのだ。だから、シンにこれを着ている姿を見せたい。けど、これでは着ているとは言えない。 「……ステラ? どうかした?」 シンの声が聞こえる。 そして――ステラは思いついた。 どうすれば、全て万事解決するか、を。 「……ステラ??」 一方、中から物音が全くしなくなり、シンは一抹の不安を覚え始めた。自分の呼びかけに応えようとしないステラ。 何かあったのか――? と思った瞬間だった。 シャッ。 仕切りのカーテンが開く。中から現れたのは、右肩を少し出し、ワンピースを胸元で押さえるステラだった。 「……は?」 シンは、我が目を疑った。 我が目を疑っても、居るのは着ている最中のステラで。 「シン、きれない」 「え?」 「きせて?」 言ってステラは、シンに背中を向ける。 見えるのは、白い肌。 そう。これがステラの考え。 着れないなら――着せてもらおう。 しかし、この考えには一つ、大きな穴があった。それは――シンの問題。 着せて、と言うから着せてあげたいのは山々なのだが、手は背中に伸ばせば伸ばすほど、どんどん震えていく。 もう少し。あと爪一つ分進めば、ステラの背中にたどり着く――……そこで、シンの限界が来てしまった。 「〜〜〜〜ッごめん!!」 「?!」 シンは謝ると、ステラの背中を強く押し、彼女を試着室に戻してしまった。 そのままカーテンを閉め、彼女が出てこないよう、両手でしっかり薄い布を握りしめ―― 「店員さーーーーーん!!」 助けを求めるシンの悲鳴が、店内にこだました。 -end- 純情少年・シン。 - 32 /69- |