ディアミリ編 「げ」 その瞬間、ミリアリアは小さな呻き声を放った。とあるデパートで可愛いワンピースを見つけ、試着室に入ったまでは良かったのだが、背中のファスナーを上げ、もう少しで首元にたどり着く――という所で、なんと金具が布地に噛んでしまったのである。 ほとんど着てしまった状態で、脱ぐことすら難しい。下手に扱ったら、生地を破いてしまうかもしれない。 それゆえ――呻いてしまったのだ。 小さく、ちいさく。ほんの一瞬働いた理性のおかげで、声は外の人間に聞こえないほどの最小音で響いてくれた。 ――が。 「ん? なんだ??」 外で待っている人間が、驚異的地獄耳の持ち主であることを忘れていた。 「な、なんでもないよ! 気にしないで」 「いや、気にするって。どーしたよ、おい」 返ってくるディアッカの声は、とても心配そうなもので……こんなことで心配かけるのも、どうかと思って。 「……笑わないでよ?」 「笑うようなことなのか?」 「笑わないって約束!」 「へいへい。絶対笑いません」 少々信じがたい態度ではあるが、ミリアリアは、正直に話すことにした。 「あのね……ファスナーが……噛んじゃって……」 「なにいいいいいっ?!」 ――シャッ!! その瞬間、ミリアリアは我が目を疑った。 カーテンが。 試着室の扉代わりのカーテンが引かれ、ディアッカが現れて。 「ほら、背中見せてみろよ。それくらい――」 「――っにしてんのよ、ばかーーーーーっ!!」 ミリアリアは叫んだ。 思いっきり叫んで、無意識の内に、自分の脱いだ服を投げつけ、ディアッカを外に追い出そうとした。 「な! 待て、俺はただ――」 「ただって何よ! バカ、変態、痴漢!! 店員さーん!! 痴漢が! ここに痴漢がいまーすっ!!」 ――スカンッ。 ミリアリアの最後の一刀、プラスチック製衣文掛けを眉間に受け、ディアッカは、成す術無く仰向けに倒れていくのだった。 -end- おバカなディアッカさんに乾杯(ヘタレすぎた??) - 31 /69- |