ディアミリ編



「げ」

その瞬間、ミリアリアは小さな呻き声を放った。とあるデパートで可愛いワンピースを見つけ、試着室に入ったまでは良かったのだが、背中のファスナーを上げ、もう少しで首元にたどり着く――という所で、なんと金具が布地に噛んでしまったのである。
ほとんど着てしまった状態で、脱ぐことすら難しい。下手に扱ったら、生地を破いてしまうかもしれない。
それゆえ――呻いてしまったのだ。
小さく、ちいさく。ほんの一瞬働いた理性のおかげで、声は外の人間に聞こえないほどの最小音で響いてくれた。

――が。

「ん? なんだ??」

外で待っている人間が、驚異的地獄耳の持ち主であることを忘れていた。

「な、なんでもないよ! 気にしないで」
「いや、気にするって。どーしたよ、おい」

返ってくるディアッカの声は、とても心配そうなもので……こんなことで心配かけるのも、どうかと思って。

「……笑わないでよ?」
「笑うようなことなのか?」
「笑わないって約束!」
「へいへい。絶対笑いません」

少々信じがたい態度ではあるが、ミリアリアは、正直に話すことにした。

「あのね……ファスナーが……噛んじゃって……」
「なにいいいいいっ?!」


――シャッ!!


その瞬間、ミリアリアは我が目を疑った。
カーテンが。
試着室の扉代わりのカーテンが引かれ、ディアッカが現れて。

「ほら、背中見せてみろよ。それくらい――」
「――っにしてんのよ、ばかーーーーーっ!!」

ミリアリアは叫んだ。
思いっきり叫んで、無意識の内に、自分の脱いだ服を投げつけ、ディアッカを外に追い出そうとした。

「な! 待て、俺はただ――」
「ただって何よ! バカ、変態、痴漢!! 店員さーん!! 痴漢が! ここに痴漢がいまーすっ!!」



――スカンッ。



ミリアリアの最後の一刀、プラスチック製衣文掛けを眉間に受け、ディアッカは、成す術無く仰向けに倒れていくのだった。




-end-
おバカなディアッカさんに乾杯(ヘタレすぎた??)

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