迷いの先に



「はあぁー……」

ディアッカは、がっくりと肩を落とした上、大げさなため息までついてみせた。
いや、誰かに見せようとして、こんな態度に出ているわけではない。たとえ見ても、優しい言葉などかけてもらえないだろう。

彼には、ミリアリアに甘える特上の作戦があった。それを行使すれば、彼女はディアッカを慰めてくれる。それをうっかりサイに話したら――本人まで伝わってしまい、すでに三日ほど口をきいてもらえないでいる。

……言ったら容赦しないって言ったのに……

バラした男に八つ当たりしたかったが、それを現実のものにした時の彼女の反応が怖い。
かくしてディアッカは、やり場の無い怒りを、自分で処理するしかなくなってしまった。

「あーあ」

何度目のため息だろう。彼は呆然と、虚空を見つめる。
別に、彼女をだますとか、そういうつもりではなかった。
迷いがあるのは本当のこと。それを誰かに言うつもりも、悩んでいる姿を見せるつもりも全く無かった。
偶然……本当に偶然、悩んでいるところをミリアリアに見つかって、でも悩んでる姿なんてカッコ悪いと思って、何とかごまかそうと策を練っていたら――珍しく彼女は、優しく慰めてくれた。
それが嬉しくて、調子に乗って『悩んでいるフリ』をしてしまっただけ。

だが、ミリアリアにとっては、ひどく気に入らないことだった。

「どーしろってんだよ……」
「今度はなに悩んでるの?」
「!」

目を向ければ、後ろにミリアリアが立っていた。
久しぶりに投げかけられる声。
――多少、棘はあるが。

「ぼーっとしてないで、少しは働いたら?」

激しく嫌味を言われているのに、不思議と心には、温かいものが灯っている。
姿を見るだけで、傍にいるだけで、幸せにしてくれる女の子。

「ミリアリア様の仰せのままに」
「…………変なものでも食べた?」

邪険に扱ってるのに喜ばれてしまい、ミリアリアは背筋に、冷たいものを走らせた。






-end-
結びに一言
web拍手第三段。二本目をフォローしようとして頑張る(笑)

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