桜の頃



もうすぐ桜が咲く季節。彼らはオーブという平和な国にいた。
戦争の最中、オーブに戻れたトールとミリアリア。しかし二人は連合に籍を置くAAのクルーである。両親との再会も束の間、彼らは母艦に戻らなくてはならなかった。

「ほら急げ、ミリィ。遅れるぞ!」
「そんな事言われたって……あ!!」

突風に煽られ、走るミリアリアの頭から、向日葵の花飾りが吹き飛んだ。

「待って……!」
「おい、ミリィ!!」

その髪飾りは、ついさっき、トールが露店で買ってくれたもの。

失くしたくない!

風に舞う髪飾りを、ミリアリアは必死で追いかけた。だが、羽根の様に軽い向日葵を模った髪飾りは、風に煽られ飛んで行く。

……追いつけない……

走りながらも諦めかけていたその時、ゆらりと向日葵は下降した。
花が落ちる。
偶然その場にいた、少年の頭に。

「あ?」

背の高い少年は、目深にかぶった帽子の上に落ちた、鮮やかな向日葵を手に取った。

「ごめんなさい!」

ミリアリアが声を上げる。少年もまた、振り返った。

「これ、お前の?」
「はい……ありがとうございます」

息を切らせながら、少年から花飾りを受け取るミリアリアの顔は、輝いていた。心底ホッとした様は、髪飾りを胸元で抱きしめる姿からも見てとれる。

「良かったな。失くさなくて」
「はい…………」

頷き、ミリアリアは顔を上げた。
同時に、ざわり、と背筋に寒気が走る。

冷たい瞳。
言葉とは裏腹に、温もりの無い表情。

途端に彼女は、少年が怖くて仕方なくなった。

「……アリガトウゴザイマシタ」

軽くお辞儀をして、トールの元へと戻っていくミリアリア。
その後姿を、少年は目に焼き付ける。

「何怖がらせているんですか? 相手はナチュラルの女の子でしょう?」
「あっちが勝手に怖がったんだろ」

同じ様な服を着た少年・ニコルの指摘に、彼は悪態をつきながらも、やはりミリアリアを目で追った。
不思議と気になる。

「ディアッカ、行くぞ!!」
「へいへい」

遠くから呼ぶアスランの声に、少年は……ディアッカは、やる気無さ気に手を振った。

……それは、もうすぐ桜が舞う季節に起こった、二人の邂逅……





-end-
結びに一言
四季第一弾・春模様編。種時間、オーブに戻った時に実はすれ違ってたかもしれないディアミリを。

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