トール



震える手を握りしめ、彼は操縦桿に力を込めた。



大丈夫、二度目なんだから。
前回だって上手くいった。今回だって大丈夫だ。
恐れることなんか……何も無い。

「トール!」

上の空だったトールは、声をかけられハッとした。
見るとミリアリアが、心配そうな面持ちで立っている。
そこは出撃前の格納庫。スカイグラスパー二号機に乗り込むトールと、ミリアリア。

「どうしたんだ? ミリィ。こんな所まで……」
「だって、出撃準備入ってるって……今回は良いんでしょ? 出なくて」
「そうだけど……いつでも出られるようにしておかないと。ほら、俺、パイロットだから」

言って彼は笑った。
屈託のない笑顔。
方やミリアリアは不安げだ。

「そんな……笑ってないでよ。こっちは気が気じゃないんだから」
「……ごめん」

謝りながらも彼は笑顔だ。笑顔で、慰める様に彼女の頭をなでた。

「大丈夫だって。そんな、心配すんなよ」
「でも……」
「俺の方が不安になるじゃんか。ミリィがドジんないか――って」
「私、そんなヘマしないわよ」

そこで彼女はようやく笑った。


本当は――不安。
恐れもある。
でも、それを出してはいけない。
彼女を……ミリアリアを、心配させてはいけない。


だから彼は笑顔だった。
出撃の瞬間も、余裕の無い心の中、彼女への気遣いだけは忘れなかった。

ずっと胸に抱いて。


不安はあっても、死のビジョンは知らなかった少年。


あの瞬間――危機迫る友人の機体を見つけなければ。
ただ友達を助けたいと、その思いだけで行動しなければ。

もしかしたら、別の未来があったかもしれない……





-end-
結びに一言
この瞬間があって、ディアミリに繋がる……そう考えると切ないです。



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