ナタル



「そんな、怒ってばっかで楽しいかね〜」

そう言ったのは誰だったか。

「しかめっ面ばっかりしてると、眉間のしわ、取れなくなるぞ?」

自分の眉間を指し示しながら、冗談混じりに言ったのは誰だったか。

「もっと気楽にいこうぜ、中尉」

笑ったのは……誰だったか。



こんな時に、AAで過ごした数ヶ月間の出来事が、走馬灯のように駆け抜けていく。

在りし日の思い出。
戻らない時間。

そして今、彼女の命は消えようとしている。
聞こえるはずが無いと分かりながら、撃てと叫んだ自分。すると、望み通り大天使の砲門から、破滅の光が放たれた。
あの閃光が、自分のいる艦橋を貫けば、ブルーコスモスの盟主も滅び、この馬鹿馬鹿しい戦争は終わりを告げる。
平和な世界が訪れる。

「……それで、良い……」


――やればできるじゃないか。


我知らず呻くナタルの顔には、笑みがあった。
これまで、自分を相手にしてきたAAの戦いぶりには、ある種の迷いが感じられてきたが、あの光から、そんな葛藤は見えてこない。

覚悟の砲火――

情にもろいマリュー・ラミアスにとって、この決断は辛いものであっただろう。
ゆえに浮かぶ笑顔。
苦渋の決断を下した彼女に向けられた、最高の微笑は……妹の成長を喜ぶ姉のような、柔らかな微笑だった。






-end-
結びに一言
ナタル最期の微笑を自分なりに解釈。



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