ニコル



ニコルには心配事があった。イザークやディアッカと合流して、足付き――AAと戦って、オーブに潜入して……平和の国の工場を出た辺りから、どうもアスランの様子がおかしい。

いや、ずっとおかしかった。
落ち込んでいた。
ヘリオポリスの一件以降、彼はいつも無理をしている。

それはニコルだから分かること。なんせ彼は、士官生時代からずっとアスランの背中を見てきたのだから。父は最高評議会に籍を置き、常に成績トップだったアスランは、下手なやっかみを受けることもしばしばあった。実際、今現在も二人の仲間から受けている。
だが彼は……ニコルは純粋に、アスランを尊敬していた。

だからこそ分かる、心の揺れ。


これまでは、すぐに平静さを取り戻していたアスランが、今回はまだ……落ち込んだままだ。


「風が気持ち良いですね」

少しでも、気分転換になれば。そう思ってニコルは、甲板に立つアスランに話しかけた。
何があったかは訊かない。彼は彼なりに、普段通りであろうとしているのだ。ならばその思いは、しっかり汲み取ってあげなければ。

「少し前までは、軍服一枚じゃとても寒かったみたいですよ? ここら辺は」
「春、だからな……」

自嘲するように笑うアスランは、

「また、戦闘か……」

無意識に、そんな言葉が口をつく。
ニコルがあえて避けようとしていた話題が。

「そう……ですね」

彼もまた、頷く。

「そろそろ、決着をつけないといけませんしね」
「…………」
「足付きを……討たないと」

さみしい瞳のニコルを見て、アスランはハッとした。
オーブには足付きがいる。そして……キラがいる。足付きがオーブから出た時、それはキラと再びまみえる事を意味している。

心臓を刺すような痛みがアスランを襲った。
気取られてはいけない。足付きは『敵』。敵と戦いたくないなど、間違っても言ってはいけない事だ。
苦しむ表情を目に入れながら、ニコルはやはり、気付かないフリをした。


それがアスランのためになると信じて。


「本当は……誰も戦いたくないんですよね……」
「ニコル……?」

口をつくのは、自分の想い。

「早く戦争が終われば良いのに……」

「…………」

いつもなら同意してくるアスランが、無言だ。
戦争を終わらせるにはまず、足付きを倒さなくてはならない。だから……頷けなかった。
彼が足付きと戦いたがってないことくらい、嫌でも分かる。それでもオーブに足付きがいる以上、足付き撃破の命令を受けている以上、戦闘回避は不可能なのだ。

ザフトの軍人なのだから。
命令なのだから、戦うのは仕方の無いこと。


そう言い聞かせ、二人は戦場に立つ。
平和のため。
哀しみの戦場へと――





-end-
結びに一言
アスランを心配するニコル。この後起こった戦闘で、彼は……



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