最後においしい思いをした人は



「何考えてるのよ! それ、反則!!」
「そうだぜ? アスラン。ここは二人の初々しいデートっぷりを、黙って観察してやろうじゃないか」
「何が悲しくて、好きな女性のデート風景を観察しなくちゃならないんだ!!」


――そりゃあ、ごもっとも。


「でも、休館なんて駄目! カガリ、すっごく楽しみにしてたんだから!」
「アスラン、考え直して。カガリの事を考えたら、僕達はどうするべきなのか――」

キラもアスランを思いとどまらせようと、交渉に入る。しかし、本題のアスランをどうにかする前に、彼の言葉に心を動かされた人物がいた。
彼は、アスランの携帯を奪うと、非難の目を赤の騎士に送る。
シンだ。

「……シン、どういうつもりだ?」
「あの人のことを考えたら……邪魔しちゃいけない」
「……シン!!」

冷静に考えたシンの結論は、アスランとは真逆のものだった。カガリのためにも、今回は身を引こうと思ったのである。
アスランは、その思考についていけない。

「リタイアしたければ、勝手にしろ! さっさと携帯を返せ!」
「駄目だ! 返したらあんた、邪魔するだろ?!」
「……言ったな?」
「言ったさ」

二人の間に、火花が灯る。
はじけ飛ぶ。
そこに、冷水がかけられた。

「二人とも、それくらいにしておいたら?」

本当に水がかけられたわけではない。キラの氷点下レベルにキツイ言葉が、二人に降り注がれたのである。
二人に――というか、アスランに、か。

「シン君も、もう大丈夫だよ。唯一の情報源は、もう行っちゃったから」
「唯――なんだと?!」

そう、情報源はもういない。気付けばつい先ほどまでいたディアッカとミリアリアの姿が、どこにも見えなくなっていた。

「どうしたんですか? あの二人」
「やってられないって、デートに戻って行ったよ」
「カガリのデート場所は?!」
「もちろん言ってってないよ? あ、携帯も無駄じゃないかな。この状況で、簡単に連絡取れる状態で抜け出すとは思えないから」

冷静に、ひたすら冷静に状況を告げるキラ。
彼はアスランの友人であり、カガリとは双子の[きょうだい]でもある。
どちらかと言えば、カガリに味方をしたい。
今までは面白半分でアスランに協力していたが……キラもまた、カガリの幸せを願う一人なのだ。

「この辺って、映画館は沢山あるし、人気作だったら色んなとこで上映してる。見つけ出して邪魔するの、もう無理だよ。あきらめよ?」
「くっ……」
「それとも、尾行してたの、カガリにバラされたい?」

満面の笑みで言うキラ。
直訳すると――……これ以上あれこれやるなら、カガリに今日のことバラして、きつ〜いお仕置き=下手すれば絶交クラス受けることになるよ? となる。

力無く、その場に膝をつくアスラン。
シンは……後ろ髪惹かれる思いで、カガリの消えた雑踏をジッと見ていた。





二日後。

「っっっだ、これはあああああああああっ!!」
「何って、お前と姫さんのデートの隠し撮り」

遊びに来たディアッカを迎えたイザークは、提示された写真を見て、瞬間的に罵声を轟かせた。
そう。二人仲良く映画館に入ったり、街中を歩いたり、お食事までしちゃったりしてる写真である。

「そうか……あの視線は貴様か……っ!!」
「俺だけじゃないぜ? 撮ったのはミリアリアだし、尾行なら途中まで、キラやアスラン、それにシンだっていたし。特にアスランは酷いもんだったぞ? お前に嫉妬して、映画館一つ休館にしようとかするしよお」

笑い転げるディアッカ。
彼とミリアリアは、二人がどこの映画館に行くのかを知っていた。だから三人と別れた後、問題のデート現場に直行したのである。それから、記念にとミリアリアが写真を何枚も撮って……彼女もまた、今、カガリにその写真を渡しに行っている。

だから、ほどなく彼女の耳にも入るはずだ。
アスランとシンが、カガリのデートを妨害しようとしていたことを。

「……で、貴様はこの写真で何をしようと言うんだ?」
「こんなの余興にすぎねーよ。本題はこっち」

胸ポケットから出てくる一枚の写真。そこに写っている姿を見て――イザークの体は、全身真っ赤に染まってしまった。
写るのは、イザークとカガリのツーショット。
それまでに見せられた写真と違うのは――二人の密着具合か。

「貴様っ、そっ、な!」
「だから言ってんじゃん。ミリアリアが記念にデート現場撮ってたって。いやまさか、お前が初デートでこんなことしてくれるとは思わなかったからよぉ……こっちもびっくりだ」
「――返せ」
「これ、お前のじゃないじゃん」
「返せ、と言っている!」

眼光鋭く、睨むイザーク。まるで人を殺しかねない怒りを灯す瞳も、今のディアッカには、蚊に刺された痛みすら感じさせない。
完全に、ディアッカが一枚上を行っている。

「さぁてイザーク。いくら出す?」

いくらで、一国の代表とのいちゃいちゃ写真を買い取るか。

「貴様……後で覚えておけよ……っ」
「俺はとりあえず、そんだけ悔しい隊長殿の顔を見られて満足かな?」

勝者の笑みの中に、ディアッカは冷や汗を滲ませる。
そして同時刻――



「うわあああああああああああっ!!」



ミリアリアから全く同じ写真を見せられたカガリの絶叫が、オーブ中にこだましたとかしないとか――……




-end-

結びに一言
そしてアスランとシン(てか主にアスラン)は、カガリからキツイお仕置きが(笑)
最後の写真は、読者様のご想像のままにm(__)m

……そしてごめん、シン。ディアミリ登場で君の存在感ほぼ無くなった気がする……(マジごめん)

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