けど、快く思わない連中もいました




「あ・い・つ・は〜〜〜〜!!」
「何なんですか、あのいちゃつきっぷりは!! あの人、あんたの友達なんだろ?! 何とかしろよ!」
「あんな奴、友達でもなんでもないっ!」



ごきょっ。



アスランの左手が、レンガの壁を握り砕いた。
ちなみに、前Pラストの[めごっ]という破壊音は、アスランの左指が、レンガの壁にめり込んだ音である。彼は二段階に分けて、自分達の姿を隠すレンガ造りの建物の一部を破壊してしまったのだ。

カガリがイザークと映画に行くと知って、二人を追うことにしたアスランとシン。近くで見張るとすぐにイザークに気付かれる……と警戒し、後方五十メートル地点から羨んでいる彼らの隣に、当初持ち出す予定だったジャスティスとデスティニーは無い。
さすがに街中にMSを出すのはまずい――と思ったわけでは、もちろん無く。
ちゃんとしっかり、ドッグには行った。模擬演習のためにMSが必要だ――とか言って、乗り込む直前まで進んだのだが……止められてしまって。

これまたフリーダムを取りに来た、キラによって。

彼は嫉妬に狂う二人の姿に、冷静な頭を取り戻したのだ。
この姿は――痛すぎる、と。
キラはすかさず整備班に事情を説明し、そして彼らの説得に入った。


「二人とも、考えてみてよ。街中にMSなんて持ってったら、カガリに怒られちゃうよ?」


まあ、普通に考えればすぐに分ることなのだ。
ただ……二人の頭が、普通じゃなかっただけで。
キラは二人からあっさりMS稼動の意思を失わせると、同時にさくっと止めもさした。


「それに……二人の行く映画館、どこだか分ってるの?」
『――あ』


――それ以前に、何の映画を観るかすら知らない。
二人は愕然とした。

「キラ! お前、何か聞いていないのか?!」
「訊く暇なかったでしょ。僕だって、さっき初めて知ったんだから……」

はあ、と頭を抱えるキラ。

「なあ、誰か知ってそうな奴、いないのかよ! あの二人が、今日のこと話しそうな奴は!!」
「そんなこと言われても……カガリがキラに言ってないとなると……」

三人とも、必死で該当する人物を探す。
カガリかイザークか……どちらかで良いから、今日の予定を話す人間がいるとすれば――


『――いた!!』


彼らは同時に、同じ人間の顔を頭に浮かべた。
そんなわけで――


「おーおー。イザークの奴、なかなか積極的じゃんか」
「カガリってば、真っ赤になっちゃってる〜。可愛い〜っ!」


――特別ゲスト召集である。


イザークが話すとしたら、ディアッカ。
カガリが話すとしたら、ミリアリア。

映画について聞き出している内に、二人が実はカガリ達の待ち合わせ場所近くでデート中と分かり、何故か合流することになってしまったのだ。
そして始まる、お友達のデート観覧。
ちなみに、目だけで二人を眺められる男共とは違い、離れすぎてて裸眼じゃ見えないミリアリアは、双眼鏡を標準装備するという気合の入れようである。
もう一つ言ってしまうと、カガリにイザークと観る映画を選別したのは、ミリアリアで――

「君がカガリに、映画を勧めなければ……」

思わずアスランは、ミリアリアに八つ当たりしてしまう。

「だから、勧めたんじゃなくて、おもしろい映画が無いか訊かれただけなんだってば」
「おーいアスラン、お前まさか、ミリアリアが悪い――とか言い出すんじゃないだろうなー?」

八つ当たりした結果、ミリアリアには口をとがらせられ、ディアッカは白い目で見られ……

「男の嫉妬って、醜いよな〜」
「あんたも、あーゆー醜態だけは晒さないでね?」
「お前が浮気しなきゃ大丈夫」

他愛無い恋人同士の会話のように聞こえて、その実アスランのバッシング――という息ぴったりな掛け合いまで披露と来る。
この数秒で、アスランの心に鬼のようなストレスが蓄積された。ちょっと離れた所で体育座りまで始めて……かなり哀れな姿である。
哀れではあるが、キラは大して気にせず、ミリアリアに話を振った。

「で、ミリィ。二人はどんな映画観るの?」
「[ぶきような恋]ってやつ。なんかすごくもどかしくて、胸がキュンとなっちゃうの」
「あれ? それ……お前、こないだお姫さんと観に行ったやつじゃねーの」

不思議そうに訊くディアッカに、ミリアリアは「うん」と即答する。
正確には二週間前のことだ。彼女はカガリを誘い、SP付きではあるが――この映画をしっかり観ている。

「好きな人と観るには、絶好の映画だろうな……って思って。だから、もう一回観てきたら? って勧めたの」
「好きな人……か」

今度はシンの絶望的な声が、ミリアリアの背中に響く。

「やっぱあの人、ジュール隊長の事、好きなのかな……」
「じゃなかったら、腕組んで歩いたりしないだろ」
「う……」

ディアッカの追い討ちに、シンもまた落ち込んでしまう。
二人が動けなくなり、キラもディアッカもミリアリアも、無下に二人を追うことが出来なくなってしまった。
どうしたものか――と顔を見合わせる三人。すると、突然ゆらりと影が動き始めた。
アスランだ。

「……させるか……」

――目を座らせた、アスランである。
彼は携帯片手に、ミリアリアへと向き直った。

「行く映画館はどこだ?」
「え? いきなり何?」
「映画館を休館させる」
『はあ?!』

その驚きの声には、落ち込んでいたシンの物も混ざっていた。
目を見れば、誰もが分かることだろう。

彼が本気だと――




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