なんかもう、劇場(笑) そして――そろそろ潮時だと思ったのだろうか。ひたすらノイマンを煽っていたトノムラは、急に冷静な口ぶりを見せた。 「……ノイマン、そろそろいーんじゃねーの?」 「あ゙?!」 顔は笑っているから、煽るのを止めただけの様ではあるが……ノイマンの片手首を掴み、空いてる方の手で、チャンドラを指差す。 「落ちてるから」 「は?」 「だからチャンドラ。意識落ちてる」 意識が落ちる――人はそれを、一般的に『気絶』と言う。しかし、いまだ爆発状態にあるノイマンの頭は、そこまで回ってくれなかった。 痛めつける→ぐったりする→白目までむいてる→死亡。 これがノイマンの組み立てられた、ある種笑えない構図だった。 「チャンドラが死んだーーーーー!!」 「いや、死んでないから」 まるで背景に雷鳴が轟くような、大袈裟すぎるリアクションに、トノムラはさらりとツッコミを入れる。 だが――これまた頭が爆発状態の彼には、そんな冷静な声など届かない。今度はチャンドラの襟首を掴み、がくがくと揺らし始めてしまった。 「チャーンードーラー!!」 「……くっ、くる……し……」 ノイマンの暴走っぷりに、期せずして気を取り戻した――もとい、気絶すらしていられなくなったチャンドラだったが、せっかく目を覚ましても、彼の悲鳴を聞き入れる耳はどこにも無く。 「チャンドラ、すまない……まさかこんな、間抜けな死に方をするとは――」 「勝手に殺すなーっ!!」 トノムラも加勢してくれない以上、自分で危機を脱するしかなかった。 ありったけの力を込めて叫ぶ。でないと――本当に命が無くなりそうだ。 「……チャンドラ?」 魂の込められた想いは伝わる。チャンドラ起死回生の雄叫びは、見事ノイマンを正気に戻した。 かくり、と腕が離れ、頬に涙が伝う。 「……良かった、死んでなくて……」 「……本気かよ……」 膝をつくノイマンと、両頬を真っ赤に腫らしたチャンドラを眺めながら、トノムラは一人、冷静に呻くのだった。 そして三人は所定の位置――すなわち、明かりを囲む三人の男――に戻った。 「……戻そうぜ、話」 チャンドラが提案する。両頬を押さえているのは、十中八九、痛みが引かないからであろう。 「戻すって――ノイマンが中尉にぞっこんって所か?」 「フリーが一人ってところだ」 軽く放たれたミサイルを、あっさりノイマンは撃ち落とした。これ以上、トノムラの良い様に動かされるわけにはいかない。 そして――三人は沈黙した。 彼氏無しのクルーはミリアリアだけ。だが彼女は三人から見ればまだまだ子供の上、つい最近、恋人を失ったばかりである。 「……でも、愛しい人を失った心の傷を癒し、真の愛を勝ち取るってのも……」 「トノムラ、それ、ただつけ込んでるだけだから」 「悪い言い方はやめてもらおうか、チャンドラ君」 「お前ら……」 本当に……本当にノイマンは落胆した。 もう一度確認しておこう。ミリアリアは、三人から見ればまだまだ子供の上、つい最近、恋人を失ったばかりだ。 くどい様だが言っておく。ミリアリアは――少なくともノイマンから見れば、まだまだ子供なのだ。 「子供に手を出すなよ……」 「16は、立派な大人だ」 とうとうトノムラは開き直った。 「そうだよな。ものの判別もつくし……」 「だから、16才相手は犯罪だ!」 「でも、結婚できる年だ!!」 「お前らなあ!!」 ノイマンの訴えは、トノムラにもチャンドラにも届かない。 「だって、あんな可愛い子にエプロン姿で『おかえりなさい』なんて言われてみろ! 撃沈だろ!!」 「ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?? とか!!」 「チャンドラ、お前思考が古い!」 「でも定番だろ?」 「まあ、言われてみたい台詞ベスト3には入るな」 「〜〜あーもう、勝手にしろ!!」 叫び――とうとうついて行けなくなったノイマンは、部屋を飛び出してしまった。 そして固まる。 ……顔を引きつらせ、動けなくなった。 「どうした? ノイ――」 開いたままの扉におかしな気配を感じたトノムラが、彼に目をやり――同じく動きを止める。それはチャンドラも同じだった。 部屋の外、ノイマンの向かい、通路のど真ん中に、腕を組んだ金髪の少年がいる。アークエンジェルの正式クルーになって日も浅いパイロット、ディアッカ・エルスマン。 その横には――顔をしかめるミリアリアの姿もある。 「ええと、ハウ二等兵……」 声をかけるノイマンに、ミリアリアは大きく肩を震わせた。そのままディアッカの腕にぴとっとくっつき、何か……恐ろしいものを見るかの如き目を、彼らに向けている。 どこからか分からないが――話を聞かれていたようだ。彼女は、彼ら三人が、自分を狙っていると思っている様で。 ……まあ、トノムラとチャンドラはそうなのだが……ノイマン一人を見ると、すごく可哀想かもしれない。 とにかく彼女は、狼さん三人組の存在に恐怖を覚えていた。 そんなミリアリアを見ながら、ディアッカは、彼女の想いを代弁する。 「変態」 その一言で十分だった。 その後彼らは、アークエンジェルはおろか、クサナギやエターナルのクルーからも「変態」のレッテルを貼られたとか―― -end- 結びに一言 なんてゆーか……ディアッカさんの腕にぴとっとくっつくミリアリアさんが書きたかっただけっていうか……(汗) 狙ってる一人だと誤解されたノイマンが、一番哀れかな?? |