思い出が与える痛み




「ごめん、フレイ……」
「……んで、キラが謝るの?」

問われ、キラはハッと顔を上げた。
まるで怒っているかのような、フレイの激情が見える。

「フレ――」
「なんであんたが謝るのかって訊いてるのよ!!」

キラが駆け寄る。けれどフレイは、その網を掻い潜る様に抜け、部屋から走り出て行く。

「待って、フレイ!」

手を伸ばしても届かない。彼女の姿は、廊下の奥へと消えていく。


「〜〜ッフレイ!!」


見失っちゃいけない。
今、フレイを一人にしちゃいけない。
キラもまた、部屋を飛び出した。





「フレイ待って! フレイ!!」

キラの制止を、フレイが聞く様子は無い。長い髪をふわふわとたなびかせ、彼女はどこへ行くともなく走る。
目的地なんて無い。ただ、走ってるだけ。
現実から逃げようと。


一体どれだけ走っただろうか。キラの足が、ピタリと止まった。
彼の目の先には、階段の一段目に座り込み、膝に顔を埋め、ただでさえ細い身体をもう一回り小さく見せる、フレイが居た。


小刻みに揺れる、真紅の髪。
それはまるで、宙をさ迷う風船のように。


「……フレイ?」

キラが声をかけると、彼女はうずくまったまま、びくんと身体を震わせた。


「フレイ、お願い。顔……上げて?」


足音で、キラが自分のすぐ前に立ったと分かり、仕方なく、フレイは顔を上げた。
そして驚き、目をゆっくりと大きくしていく。
目の前にある物。
息を切らすキラが、その手にしている物。


彼女が作った、紅い風船――


「……はい」


キラが、風船をフレイに掲げる。

「なんで……」
「お父さんとの、大切な思い出なんでしょ?」

やはりキラは、ちゃんと聞いていた。
「パパ」という小さな呟きを、逃すことなく聞いていた。
だから、この風船をここまで連れて来た。

けどフレイの眉間には、どんどんしわが刻み込まれていく。


「こんなもの……こんな物あったって、パパは私を見つけてくれない! どんなに寂しくったって、探しにも来てくれない!!」


パンッ!!
風船を渡そうとするキラの手を、フレイは癇癪と共に弾いてしまう。
衝撃を受けるキラの目が。
叩いた手が――痛い。




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