お弁当を前にしたアウルは







「え?! ルナがお弁当作ったの?!」
「……何よ、その反応……お弁当持ってきてやるって言ったじゃない!!」

昼。試合途中のお昼休憩に自信作を取り出したルナマリアは、アウルの言葉に憤慨した。

弁当が無い。
持ってくる。

この流れで行けば、自分が作って持っていくことなど、火を見るより明らかだと思うのだが――


「や、てっきりメイリンが作ってくれるもんだと」


アウルの思考は、少々ひねくれているようだ。

「なんでメイリンが出てくるの……」
「だって作るだろ? 弁当。ほら」

促されて視線を向ければ、遠く離れたところで弁当を広げるメイリンを見ることが出来た。隣には、レイ。彼もまた、本日の試合に選手として出場している。
――Z.A.F.T学園の選手として。
メイリンはレイのお弁当を作るだろうと、アウルは踏んでいた。一緒に応援に行くであろうルナマリアの分も一緒に作ると考えていた。だから、そのおこぼれに預かろう――と考えたらしい。
ちなみに、予想通り順当に勝ち進んだアウル達は、午後からこれまた同じく順当に勝ち進んだZ.A.F.T学園と、決勝でぶつかることが決定した。


〈……それにしても……〉


ふとそんな「バスケ」とか「決勝」とか全く関係ないところで、ルナマリアは不思議に思ってしまった。


〈あの子、いつの間にお弁当作ったのかしら……〉


メイリンが台所に立ったのは一時間も無い。ルナマリアがコーヒーを淹れ、リビングで一息ついている間に、トーストを焼き、ベーコンエッグを作り、洗い物をして……朝食だって、二人で仲良く食べた。なのに家を出るときには、しっかり二人分の弁当を作ってしまっていて。


「……しっかし、ルナが作った弁当かー……」
「……何よ、その疑惑の目は」
「うーん。食って腹壊さないかなーと……」
「あんたねーッ!!」


――がさっ。


立ち上がって怒りを表現しようとしたルナマリアの手が、アウルの鞄に触れた瞬間、そこから紙のこすれる音が聞こえた。
彼女の意識は、当たり前のように鞄の中に向けられる。
あいていた鞄。見えるのはピンク色の包み。どうやらこれが音の正体らしい。
中に入っているのは、

「……クッキー……?」
「ぴんぽーん」

――と声を張りつつ、アウルはピンクの包みを掠め取る。

「どうしたの?」
「へへーん。さっき差し入れにもらったんだ」

にこにこしながら、アウルの口の中に一枚クッキーが飛び込んでいった。




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