些細なことから始まる喧嘩




「なんだよ、薄情者って……ルナって見る目無え」
「どっちよ。私が鈍感だったら、アウルは超鈍感じゃない」
『…………』

皮肉った後に訪れるのは、恐ろしいほどの沈黙。
二人は思っていた。ただ買い物に出ただけなのに、どうしてこんな事になってしまったのかと……



家を出て十分。二人は仲良くスーパーにたどり着いていた。近くに駅のある、そこそこ大きくて、交通の便もなかなかに良いスーパーに。
そこで、事件は起きてしまった。

「なあ、ちょっと良い?」
「はい?」

スーパーに入ろうとした矢先、ルナマリアが呼び止められた。
相手は、十代後半と思われる青年。

「駅ってどっちにあるの?」
「駅、ですか?」

一瞬彼女は眉をひそめた。駅は通り一本向こうにある。こんなに近い場所で訊かれる事に一瞬違和感を感じたが、地元の人間じゃないんだろうな、と結論付けた。そして、警戒心の全く無い表情で、ルナマリアは青年に教え――ようとした。


「駅は――」
「――あっち」

彼女が言うより早く、アウルがふてぶてしく指を差す。
ルナマリアを片手で抱き寄せて。

「……は?」
「だから、駅の場所だろ? あっち。あっちに歩いていけば、大馬鹿じゃねーかぎりたどり着けるから。ほら、行った行った」
「……ちょっとアウル!」

突然のアウルの介入に、青年は呆けてしまった。一方ルナマリアは、驚きと非難の目をアウルに向ける。

駅の場所が分からなくて困っているから、尋ねてきたのに。
なんて非常な男だろう、と。

結局青年は軽い会釈と共に、アウルの指差した「駅の方向」へと歩き出した。確かに、あの方向に歩いていれば迷うことは無いだろうが……


「アウルひどい。何であんな冷たい態度取れるの?」
「それはこっちの台詞だって。何であんな、あからさまなナンパに引っかかるわけ?」
「ナンパ? 男連れをナンパなんて、普通しないでしょ! しかもあんな古典的な!!」
「男が居ようが居まいが、可愛い子がいたら声かけるんだよ、男ってのは!」
「それ、アウルがナンパ好きなだけでしょ!」
「なんだよ、人が折角助けてやったのに!
「助けなんか要らないわよ!」
「〜〜ルナの鈍感!!」
「アウルの薄情者!!」
『ふんっ!!』


スーパーの前で、二人は大喧嘩をしてしまった。




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