それはちょっと行きすぎた感情表現




そこでルナマリアは、初めてひったくり犯の顔を見た。

色素の薄い肌。水色の瞳……その造形の全てが、海を連想させる少年。
思わず見入ってしまうほど、綺麗な顔立ちである。

「間近で見ても可愛いな〜。で? どっちさ」
「どっちって……」

まるで鼻先が触れ合ってしまうほどの距離。
こんな近くで異性の顔を見るのは初めてで、彼女は硬直してしまった。

「連合? ザフト?」
「――ザフト、よ。文句ある?」
「そっかー、ザフトかー……残念」

声を何とか絞り出すルナマリアとは対照的に、少年は、含みのある冷笑を作り出す。
そして、彼女の頭に帽子を重ねた。

「え?」
「返す」
「あ――うん」

思いの他あっさり返ってきて、ルナマリアは拍子抜けしてしまう。その隙が、新たな問題を生んだ。

「軍人のくせに、無防備だな〜」
「む――」

皆まで言うことなく――ルナマリアの声は消えた。
しゃべれない。



唇が――塞がれて――



何が起こったのか分からない。
ただ、ちょっとだけ、少年の顔が寄ってきて。
鼻が頬をかすって。


「〜〜っにするのよ!!」


脳が全てを理解した時、ルナマリアは全ての力を使い、少年を突き飛ばした。
彼は全く動じない。まるでこうなることが分かっていたように。

「ごちそうさま」

ペロリ、と少年が、自分の唇を舐める。
血が滲む。
少年の唇から、血。
彼女が突き飛ばす際、歯で作ってしまった傷。

「やっぱ、これっくらい気の強い女じゃないとね〜」
「……んなのよ、あんた……」

男の神経が信じられず、ルナマリアは後ず去る。
何で自分が、こんなことされなくちゃならないのか。


帽子を盗まれ。
唇を奪われ。


最悪すぎて、これ以上下がることが無いと思っていたテンションは、そこが見えないくらいどん底に落ちきっている。

すると少年は――これまた、とんでもないことを言ってくれた。

「なあ、一目惚れって信じる?」
「――は?」

彼女は確信した。
今、自分は生涯初と言っても過言では無いくらい、間の抜けた顔をしている――と。


ヒトメボレ?
一目惚れ……ですと?
一目惚れで……この仕打ち??


話の展開についていけないルナマリアを放っておいて、少年ははっきり告げた。


「好きな子ほど苛めたいって、聞いたこと無い?」


最悪な気分で出会った最悪な少年の最悪な告白に、ルナマリアの思考は、しばらく真っ白なままだった――




-end-


結びに一言
よい子も悪い子も、こんな悪戯しちゃいけません(爆)

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