7000踏 猫屋様 リクエストテーマ 「ニコルについて語るディアさんとミリ」 鎮魂歌 ある夜。 停泊中の廃墟コロニーを散策していたディアッカの耳が、楽器の音をとらえた。 美しく響くそれは――ピアノのもの。 〈何でピアノの音が……?〉 不思議に思いながらも、ディアッカは建物へと吸い込まれていく。 そこは寂れたコンサートホール。薄暗い通路を抜けた先には、大きなすり鉢状の演舞場があり、中心には一台のピアノと、長く美しい桃色の髪をたずさえた歌姫の姿があった。 「……あら」 ディアッカの存在に気づいたのか、ラクスがぴたりと手を止める。 「悪ィ……邪魔だったか?」 「いいえ、そんなことは」 「……じゃ、もう少し聴いててもいいか?」 「もちろんですわ」 彼女は再び、鍵盤に指を置く。 その姿を見て、その曲を聴いて、ディアッカは瞳を閉じる。 頭をよぎる、彼の少年―― 「そんな所で立ってないで、こちらに座ってくださいな」 鍵盤とにらめっこをしながら、ラクスは言った。 「その方が、弾き甲斐がありますわ」 「……じゃ、遠慮なく」 空気の澄み切ったホールは、小さな音すら相手に届ける。演奏の邪魔をしないよう、物音を立てないように最下段まで降りると、彼は静かに腰を下ろした。 そして――ラクスの紡ぎだすピアノの音に、じっくりと聴き入る。 「この曲……どこで?」 「アスランが、聴かせてくれましたの」 「アスラン……か」 苦いものがディアッカの心に生まれる。 これは、何かの因縁だろうか。 「とても素敵な曲ですわ……」 ラクスの声に、ディアッカはハッと顔を上げ…… 「…………なあ」 一瞬ためらったものの、話しかけた。 「あんたさ……歌姫だよな?」 「世間ではそう呼ばれることもありますけど」 「……歌わねーの?」 「??」 言葉の意図を読みきる事が出来ず、さすがにラクスはディアッカへと目を向ける。 その過程で、彼女はもう一人、ホールの奥に佇む人物を見つけた。 「あらあら。お客様が増えましたわね」 ディアッカも、ラクスの視線を追う。 その先にいたのは――ミリアリアだった。 |