5000踏 冬月様より リクエストテーマ 「ディアッカの仕草にどきりとするミリィ」 ――不覚ッ! 一生の不覚!! ミリアリアは、やり場の無い感情をベッドにぶつけた。 枕を手に、力の限り、彼女はベッドを殴り倒す。 「――ッの!!」 ぼすんっ! 大きく叩いて――気が済んだのか、あるいは疲れたのか、肩で息をしながら、虚空を眺める。 思い起こすのは、数時間前の、あの出来事―― わずか一瞬のときめき その日、珍しくディアッカがブリッジにやって来た。彼はサイに用があったらしく、入ってくるなり、ミリアリアの背中越しの席へと直行する。 小声で交される会話は、真後ろにいるはずのミリアリアでさえ、しっかり聞き取ることは出来ない。 〈聞かれたくないなら、どっか別の場所で話せば良いのに〉 聞こえそうで聞こえない。そんな、ある種耳障りな声に、軽い苛立ちを覚えた時、 「順調?」 今度はディアッカ、ミリアリアの方へと移動する。 変わったのは、体の向きくらいだが。 「普通」 ディアッカを視界におさめる事もなく、ミリアリアは仏頂面で答えた。 「用が済んだら、さっさと帰ったら?」 「これから本題なんだけど」 「? ……サイに用事じゃなかったの?」 ここで初めて、ミリアリアはディアッカを見た。 彼はおどけた様に言う。 「わざわざ、サイに会いに来たりしねーって」 「何か、ひどいこと言われてないか?」 後ろから野次も飛ぶ。 しかしディアッカは、気にせず続けた。 「ちょーっと顔が見たくなって」 「誰の?」 「……分かれよ」 真顔で返すミリアリア。ディアッカは……彼女のぼけっぷりに、小さなうめきをもらしてしまう。 ――どうして、ここまであからさまな態度を見せているのに、彼女は俺の気持ちに気づかないんだ? ディアッカ的『AA七大不思議』の一つに上げられるほどの疑問点である。 そんなに鈍感な人間とも思えないのだが。 分かってやってるなら、それでこちらのペースを乱される事態は避けたいもの。彼はカマ掛け要素も含め、ずばり真意を問うてみた。 「本当に分からない?」 「分からないから聞いてるの」 ムッとして、そっぽを向いて。 ……ああ、彼女は別に、意地を張るとか、天邪鬼モードに入ってるとか……意地悪しようと言ってるわけじゃないんだな、とディアッカは悟った。 本気で分かっていない。 今まで結構頑張って、親密レベルを上げていたつもりだったが――それは自分だけで、相手側はどうとも感じ取っていなかったようだ。 虚しさが去来する。 「ったく、あんたって一々回りくど――」 ――ピピピッ。 文句は途中で掻き消えた。 ミリアリアの座るCICに、電文が届いた音である。 |