3000踏 猫屋様より

リクエストテーマ
「超ドキドキするミリィ」


時々、自分の心が信じられなくなる――





蓮の瞳に薫る声






珍しく、休憩時間になってもディアッカが呼びに来なかった。
この頃ミリアリアは――文句を言いながらではあるが――もっぱらディアッカと食事を取るようになっていたので、来ないとなると寂しいものを感じたりする。


仕事が押してるのかな……


そんな事を考えながら、食堂に向かいはしたものの、彼女は途中で向かう場所を変えた。
何となく、食堂に行く気になれなくて。
今の時間、大抵食堂内にはたくさんの人がいる。一人で大勢の輪の中に入る気分ではなかった。

――というか単純に、人ごみの中に行きたくない。

時間はたっぷりあるのだから、後からでも良いや……そんな結論が組み立てられた。
ゆっくり出来て、人のいなさそうなところ。
とっさに浮かんだ場所は二箇所だった。


エントリーナンバー1=娯楽も何もあったもんじゃない、寝るためだけに用意されたといっても過言ではない、自分の部屋。
エントリーナンバー2=長椅子と窓しかないけれど、宇宙の景色が見れる分、少しは気分転換になりそうな気がする、展望室。


彼女は展望室を選んだ。さすがに自室じゃ、味気がなさすぎる。
とまあこんなわけで、はるばる展望室までやって来たのだが……


「……あれ?」

これまた珍しいことに、先客がいた。

椅子に座る人影が見える。それは金髪&赤ジャケットの青年で……こうきたら、AA内で思いつく人間は一人しかいない。
試しに声をかけてみる。

「ディアッカ?」
「あ? ミリアリア??」

彼女の問いかけに、ディアッカの、何ともやる気のない声が返ってきた。

それは良い。奴にやる気が見当たらないのは、いつものことだ。だが……ディアッカの姿は、少々おかしなものだった。

赤ジャケットを肩から羽織る一方、首にタオルをかけるディアッカ。彼の髪は……少し濡れていた。普段と違って、まとめ上げてすらいない。
シャワー帰り、と言う単語が、頭に響く。

「ちょっと……ちゃんと乾かしてから来なさいよ!」

驚いた彼女は――まるで世話女房のように、タオルで彼の頭を拭き出した。
一方でディアッカも、ミリアリアの行動に驚いてしまう。
ぽかんと開いた口が、全く塞がらない。

「まったく……子供じゃないんだから」
「ああ、いや……ドライヤーがあかなくて」
「ドライヤー?」

言い訳が気に食わないのか、ミリアリアは目を吊り上げた。
それでもディアッカは、分かってもらおうと説明を続ける。

「ほら、さっきまで俺、おっさんと船外活動してただろ?」
「……そういえばそうね」
「……まさか、CICが忘れてた?」

言われて思い出したなんて、口が裂けてもいえない。かれこれ数10分前、宇宙で活動していたMSの誘導を担当した本人が、それら全てを奇麗さっぱり忘れていた――など。

「……で? 船外活動にどんな理由があるの?」

これ以上変なツッコミは入れてほしくないミリアリアは、早めに話を元の路線に戻した。
ディアッカが食らいついてくる恐れもあったが、今回は大丈夫だった。
そうだそうだ、と言いながら、自分の話を続ける。

「いやな、帰って速攻シャワー浴びに行ったんだけどよ、修理班と時間かぶっちまってよ……何やるにも順番制になっちまったんだよ。こちとら早く着替え済ませたかったら、結局自分の部屋で浴びたんだけど……」
「浴びたらどうしたのよ」
「……ドライヤー壊れてるの、忘れた」
「…………」

何とも間抜けすぎるお話に、ミリアリアは呆れ度数100%のため息をついた。ディアッカも……これ以上は何を言っても無駄と分かっているのか、弁解をしようとする素振りすら見せない。

ミリアリアは、言ってやった。

「タコ」
「面目ない」

下がっていた頭が、より一層下がる。

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