2222踏 う〜様より

リクエストテーマ
「シェフのオススメ」


コイントス☆マジック





その日、何とも珍しいことが起きた。食事時しか動かない拘禁室の扉が、夕方という中途半端な時間に開かれたのである。

――久々に尋問か?

やれやれ、と身を起こすディアッカは、聞こえてきた足音に耳を疑った。
それが、いつも食事を運んでくれる少女のもので。

「……なんて顔してんのよ」

姿を見せた少女・ミリアリアは、ディアッカの顔を見るなり不満をもらす。眉間にしわを寄せた表情は、彼女の機嫌を軽く損ねた。

「いや、だってよ……」

ディアッカの視線は、彼女の手元に移される。
こんな時間に来ただけでも不思議なのに、彼女は手に食器トレイを持っていた。
だが、そこにあるのはちょっと早めの夕食――という類の物ではない。

――丸いクッキーと、湯気の立つお茶――

どう見ても、茶菓子セットである。

「……ああ、これ?」

ディアッカの視線を追い、ようやくミリアリアは茶菓子の説明に入った。

「ウズミ様から差し入れがあったの。これ、あんたの分だから……ちゃんと食べてよね」

言って彼女はトレイを入れ――

「――っと待った」

とっさにディアッカは、ミリアリアの手首を掴んだ。
違和感に気がついて。

「これ、あんたの好意?」
「――そうよ」

言葉につまるのを、彼は聞き逃さない。

「俺のこと忘れなかったんだ」
「そりゃ、ご飯持ってきてるし……それに、一人じゃ退屈そうだし……食べる事しか楽しみ無いでしょ?」
「へぇ……」

嬉しい物言いに、拘束する右手に力がこもる。
この頃AAの上層部には、存在すら忘れられてるんじゃないかと考えてしまうのに。
まさか捕虜相手に『退屈そう』なんて言葉が飛び出すとも思わなかった。

「離してよ」
「やだね」

青と紫の瞳が交差する。
うろたえる青と、追いかける紫。


この茶菓子は彼女のもの……ディアッカはそう思っている。

戦艦のクルーと違って、ディアッカは始終ミリアリアの側にいるわけではない。だからなのか――ディアッカの目には、彼女の変化が見てとれた。
先ほど感じた違和感。

――昨日よりも、やつれている。

眠れないのか食べてないのか……どちらにしろ、良い痩せ方ではない。かと言って、ディアッカが真剣に注意したところで、彼女の反発は目に見えている。
なら少々、冗談交じりに言ってはどうかと考えた。

「あんたさ、ダイエットとかやってねーか?」
「してないわよ」

ムッとして、手を抜こうとするミリアリア。この反応は……頭の中で組み立てた『真剣ばーじょん』と全く変わらなかった。
普通に言っても良かったな、と少し後悔してみる。

「じゃ、しっかり食べてる、と」
「あ……たり前じゃない」

核心突いた一言で、途端にミリアリアはしどろもどろになった。
目も泳ぎはじめる。
なんとも嘘の下手な女の子だ。
だが、おかげでディアッカは、自分の立てた推測が正しいと判断できた。


この茶菓子は、ミリアリアに与えられた『差し入れ』なのだろう。だが食欲の無いミリアリアは食べることが出来ず……せっかくの差し入れだから――と思ったかどうかは定かではないが、とにかくディアッカに食べ尽くしてもらおうと考えた。

〈しゃーねぇなー……〉

大きく息を吐き出すと、彼はあらためてミリアリアを見る。
不安気な瞳が映る。

「なあ、コインとか持ってねぇか?」
「持ってるわけ無いじゃない」

当たり前のごとく言い捨てるミリアリア。

「……で、コインがあったら、どうするの?」
「ゲーム」
「一人で?」
「なわけねーだろ。あんたと二人で」
「――――」

開口して――でも文句は出てこず、彼女は必死に手首を抜こうと頑張り始める。
しかしディアッカは、余裕綽々でミリアリアを拘束し続けた。

「か弱いね〜。そんな力で、俺から逃げられると思ってんの?」
「思ってるわよ!!」

言うなりミリアリアは、自由なもう片方の手で、ディアッカの手を外しにかかった。

――が。

「そんな事したって無駄むだ」

これまた空いていたディアッカの手が、動く彼女の手に伸びる。

「自分から掴まりに来てどうすんの」
「く……くやしい」

ミリアリアは、本当に悔しそうな表情をする。
それがまた、ディアッカのいたずら心をくすぐった。

「ゲーム、付き合う?」
「……コインなんて無いわよ?」
「代わりならあるから」

言うディアッカの目は、彼女の持ってきた茶菓子をとらえていた。

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