サンタ系パロディシリアス小説。
ディアッカ=サンタ、ミリアリア=市民でお届けします


私のサンタさん






雪のうつろう街、悲しみに暮れる女の子がいました。
彼女の名はミリアリア。あと二月経たずして17歳になる少女は、部屋の中で一人、泣いていました。
今日はクリスマスだと言うのに。

「おいおい、そんな顔されると、こっちが困るんだけど」
「……あなたが困ろうが、私には関係ないわ」

少女の向かいには、サンタさんがいます。
金髪、色黒、まだ成人にも満たないであろう風貌……赤装束を纏っていなければ、およそサンタと言えない様な少年でしたが、これでも彼は、立派なサンタクロースです。この街の担当になった金色のサンタさんは、願いを手紙に託した子供達にプレゼントを配っている最中、彼女を見つけ……思わず、姿をさらしてしまったのです。
サンタは人に見られてはいけない――そんな規則も忘れ去って。

「出てってよ。私、サンタになんか興味ないんだから」
「サンタに、なんか?」

ぴく、とサンタさんのこめかみが上がりました。
よほど、何やらこみ上げる感情があったようです。

「サンタは夢と願いを運ぶ頼もしい職種だぜ? それを『なんか』で済ませられちゃあ……」
「じゃ、貴方は私の願いをかなえられるの?」

虚ろに、ミリアリアは言います。

「私の恋人を、生きかえしてくれるの?」

サンタさんは――言葉を失ってしまいました。
彼女の願いはただ一つ。先日、隣国との戦争で奪われた恋人を蘇らせてほしいだけ。
それは彼女の何物にも代えがたい願いであり、同時に、サンタさんにはどうすることも出来ない問題でした。

「……悪ィ」

サンタさんは、苦しげに謝りました。
願いを届けるサンタさんが、唯一かなえられない望み――それが『命』に関わることなのです。死者を生き返らせたり、逆に命を奪ったり……世界で一番尊いものゆえ、サンタさんは、その育みに手を出すことが出来ないのです。

「……なら、いらない」

ぽそりと、言葉が紡がれました。
ミリアリアの言葉。


「サンタなんか、いらない」


その瞬間、サンタさんの胸に、激しい痛みが生まれました。
拒絶されたのは初めてのことで……それが、ずきんと心に突き刺さったのです。

全てを拒絶する女の子。サンタさんはこの子を、どうにかして助けたいと思いました。

「そんなこと、言わないで」

サンタさんは、彼女を励まそうとしました。しかし、ミリアリアはサンタさんを見ようとしません。

「……私のことなんか、放っておいてよ」
「放っておけるか」

その時初めて、サンタさんは強い口調になりました。

「今にも死にそうな目ェした奴、ほったらかしにできるかよ」
「…………でも、もう……」

膝に顔をうずめ、ミリアリアは悲しくつぶやきます。

「もう何も、したくない……」

恋人を失ったショックゆえのことでしょう……彼女は、無気力になってしまっていたのです。
何もやる気が起きず、生きる希望さえ見出せない日々。
サンタさんは考えました。彼女に――毎日続けられる、決まった『何か』をさせられないかと。
大したことじゃなくても良いのです。毎日出来ること、それが習慣になっていけば。


……いつか、彼女の心は、生への渇望を取り戻すかもしれない……


「…………」

サンタさんは考えた末、願いを叶える白い袋の中からあるものを取り出し、無言のまま、彼女の目の前に差し出しました。

「……?」

不思議に、彼女は手を見ます。すると――そこにあったのは鈴蘭の花。

「やるよ、これ」
「……え?」

ミリアリアは……驚きを隠せませんでした。
白く小さな『鈴蘭』に目を奪われ、自分でも気付かぬ内に、かの花を手にするほど。

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