戦後・オーブ設定でお届けです


やきもち天使







白い雪の舞う中、ディアッカは走っていた。
辺りを埋めつくす人々の中、彼女だけを探して。
……見つけだそうとして。

「あいつ……どこ行ったんだよ」

そこにあるのは怒りでも、憤りでもない。
ただ、困っているだけ――


参ってしまう。


冬の街中、ミリアリアと、どこに行くとも決めず遊びに繰り出した。まあ、いざ来てみれば、彼女の買い物に付き合う……そんな感じになったのだが、ミリアリアが楽しそうなので、大して興味の無い店の連続でも、つまらないとは思わなかった。

そう、つまらなくなどなかったのに。

店の中で、彼は声をかけられた。
相手は女二人組。
簡単に言えば――逆ナンパ。
俺もまだまだ捨てたもんじゃねぇんだな〜……と思いつつ、角の立たないよう丁重にお断りをしたら、近くで服選びをしていたミリアリアが、突然不機嫌になった。

楽しい反応に、ディアッカは「やきもちかぁ?」とからかって。
もちろん彼女は「違うもん」と愛らしく頬を膨らませて。

そこまでは、予想範囲の態度。直後の行動に、彼は目を丸くしてしまった。


「……私と一緒にいても、楽しくないんでしょ」


そして、彼女は店を飛び出した。


何がなんだか分からない。すぐに後を追ったものの、粉雪舞う街中は、これでもかと言うほど人で壁を作り、ディアッカの行く手を塞いでくれる。逆に小柄なミリアリアは人垣をするりと抜け、どんどん遠くへ――そして、ついには見えなくなってしまった。

なぜ、逃げるのだろう――

ディアッカは考える。
膝に手をつき、疲れを癒しながら、頭をフル回転させる。

何が彼女の機嫌を損ねた?

まあ……知らない女性に声はかけられたが、ちゃんと断ったじゃないか。下心なんて微塵も出さずに。

「……くそっ」

考えても答えは出ない。そしてディアッカは、答えの出ない議題で頭を悩ませていられるほど、気の長い男でもなかった。
ミリアリアさえ捉まえれば、万事解決する話でもある。

「……ぜってー見つけてやる」

彼女の行きそうな場所、逃げ込む所。そんな検討もつかない中、ただやみくもに捜し回る……普通なら絶望感すら漂う状況にもかかわらず、ディアッカに不安はなかった。

絶対に見つかる。

おかしな自信が、そこにはあった。
自分に、彼女を見つけられないはずはない――と。

不安や焦りなどなく、感じるままに足を進める。
ミリアリアを感じる方へ。
彼女のことだけ考えて――

「……………………」

目がとまる。
小さな公園の片隅に、彼女の姿があった。

「……見つけた」

ディアッカの声に――なぜか滑り台の上にいたミリアリアは、肩を震わせた。

「……撒いたと思ったのに」
「残念なことに、俺、ミリアリアレーダー持ってるんだよね〜」
「何よ、それ」

しかめっ面のミリアリアは、滑り台から降りようとしない。膝を抱え、ぷい、とそっぽを向くと、そのまま言葉を発さなくなってしまった。

「……で?」

沈黙も何のその、彼は小さな背中を見ながら、ため息交じりに問う。

「何で逃げるの」

しかし、愛らしい背中は答える気配すら見せてくれない。

「俺、なんかした?」
「……してない」
「じゃ、なんで怒ってんの」
「怒ってなんか――」
「怒ってるじゃん」

言い当てられ、ミリアリアは押し黙った。
誰がどう見ても、自分でも分かる。

「……つまんないんでしょ? 私といても」
「別に、そんなことないけど……」
「うそ」

彼女は非難の目で、ディアッカを見た。

「あの人達の前だと、あんなに楽しそうにしてたじゃない」

それは一悶着起きない様、最大限に気を使ったからで――と嘆こうとした瞬間、思考が固まった。
ミリアリアが抱いている感情に気がついて。


「つまんないなら、つまんないって言ってよ!」


瞳を潤ませて立ち上がる彼女に、逆光が降り注いだ。
雪の結晶が、陽の光を反射する。
纏う白いコートが輝いて。

まるで、まるで――


――まるで、天使のよう――

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