10000踏 スカラ様より

リクエストテーマ
「夜は違う二人」


朝と夜の懸け橋






彼女はいつも元気だ。

「そんな所に立ってないでよ。通行の邪魔」

ディアッカに対して、ミリアリアはよく、こめかみ付近に血管を浮き立たせる様な態度を取る。
それが普通。
彼としては、他のクルーに向けられている輝かしい微笑を受けたいところなのだが、まあ……贅沢は言っていられない。多少不器用なれど、二人はこれでコミュニケーションをとっているのだから。

「まあまあミリアリアさん。人にはそれぞれ、都合と言うものがありまして」
「往来激しい通路の真ん中陣取って、いかがわしい本読む都合なんて知らないわ」
「いくら俺でも、ンな堂々と読まねーよ!!」
「じゃ、隠れたところじゃ読むんだ」
「…………」

見事な返し技に、ディアッカは言葉を失った。
明らかに、言い訳方法を間違えている。ここは、自分の読んでいる本が工学専門書であることを主張し、ちゃんと勉強だってしてることを伝えるべきところなのだ。

「さいってー」
「俺だって健全な青少年だぞ?! 見て何が悪い!!」
「うわ、最悪! 何開き直ってんの?!」

二人の側を行き交うクルー達は、見て見ぬフリをしている。その大半は……笑いを堪えながら。
またやってるよ――と。
今や『ディアッカに怒るミリアリア』の図は、AA名物となっている。
だから誰も、止めることはしない。

「おい、機嫌直せよ」
「知らないっ」
「そんなに俺が、エロ本読んでるの嫌か?」
「何で私があんたのことで気分害しなくちゃならないのよ!」
「害してるじゃねーか」
「う……」

今度はミリアリアが押し黙る。

「と――とにかく、ぼさっとしてる暇あるんだったら、こっち手伝ってよ!」
「ぼさっとしてるわけじゃないんだけど……」

文句を言いながらも、ディアッカは本を閉じ、

「他ならぬミリィの頼みとあらば、手伝わないわけにはいかないか」
「どうしてかしら……どうしてあんたと話してると、こんなにも胃がムカムカしてくるのかしら……」
「それは……ほら。俺のこと愛しちゃってるから――」
「それだけは絶対に無い」

ディアッカの冗談を、ミリアリアはあっさり切り捨てた。

それは、いつも通りの二人だった。

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