リクエストテーマ
「冷静と情熱の間」


夢のせいで気分は最悪なものの、ミリアリアは、いつもと変わらない素振りを見せた。
苦しみがくすぶっているのを気取られてはいけない。

だから明るく。努めて明るく……

しかし、無理は疲れる。実際彼女は、精神的にくたくたになっていた。


〈あともう少し……〉


10分も我慢すれば、休憩時間になる。そしたら部屋で一眠りでもして――

と、彼女が10分後の計画を練り始めた時だった。

「ラミアス艦長」
「……!!」

開く扉、そして耳に届いた声に、身が凍り付く。

いつの間にエターナルからAAにやって来たのだろう。現われたのは、アスラン・ザラだった。
彼の出現は、冷静を取り戻していたミリアリアに、例の感情を思い起こさせた。


今朝見た夢が。
奪われた悲しみが。
錯乱して……人を傷つけた苦しみが。


彼女にとっては、これら全ての事象の元凶と言ってもおかしくない人間が、横にいる。
精神的な疲れがたまっているのも手伝ってか……いや、そう思いたいだけかもしれない。

どちらにしろ、彼女にとっては苦痛でしかない存在だ。

「……どうした?」
「!!」

そんな折、様子のおかしいミリアリアを心配したのか、アスランが声をかけてきた。
だがこの場合……逆効果でしかない。

「大丈夫か?」


伸ばされる手。


この手がトールを奪った。


こんなことを思うのは、あの夢を見てしまったせい。
冷静に考えて。
これは戦争。
この人が悪いんじゃない。

そう言い聞かせても、思考が止まらない。


視界が揺らぐ。
封印していた感情が――甦る!


「いやあっ!!」


ぱしんっ!

ミリアリアは、自分を気遣う少年の手を払い除けてしまった。
驚きのあまりアスランは目を見開き、彼女の思わぬ行動に、クルー達も息を呑む。
刺すような視線が彼女を襲った。

「あ……」

我に返ったミリアリアを待っていたのは、言い知れぬ罪悪感。

「ッ……!!」
「ミリィ!!」

背中でサイの声を聞きながら、ミリアリアはブリッジを飛び出した。

*前次#
戻る0