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「夜は違う二人」


「私らしいって、どういうこと?」

切羽詰った声は、訊ねるというより、問いただす……という側に近く感じる。
どうやら彼女は、何らかの悩みを抱えているらしい。

「どういうのが、私“らしい”の?」
「どうって……」

彼の中の『ミリアリアらしさ』を話せば、それで終わることである。
しかしディアッカは、まくしたてるミリアリアを前に、答える事が出来なかった。

何が彼女をここまで駆り立てるのか。
何故彼女は、こんなにも迷っているのか。
そして――何に迷っているのか。

「ねえ、教えてよ」
「それは……」
「分かんないよ」

両手で顔を覆い、泣きじゃくるように彼女は叫ぶ。


「……―ル……ッ!」


小さく。

かすれた声は、その全てを伝えてはくれない。
普通の人間なら、聞き取る事さえ不可能なほどの音量であったが、哀しいかな、ディアッカはコーディネーター、しかも訓練を受けた軍人で。
常人よりもはるかに、耳は良い。
彼女が何を言ったのか、誰を呼んだのか……はっきり捉えてしまった。


「トール」


心臓が抉られる。
激しい痛みに、ディアッカは膝をつきたくなった。
ここで倒れてしまえれば、どんなに楽だろうと考える。

だが――それは嫌だ。

理不尽なものを感じる。なぜ突然、自分の知らない亡き恋人の名を紡がれなければならないのか。
もしかしたら……彼女も分かってないかもしれない。
助けを呼ぶ声に聞こえたから。


なら自分は、彼女の助けになりたい。


「……ミリアリア」

呼ばれ、ビクリ、と肩が震える。

「手、出して」
「……?」

言われた当初、彼女の手は動かなかった。しかし、ディアッカが何も言わず、ただミリアリアの間に両手を広げているのを見て、恐る恐る、手を伸ばす。

「…………」

ゆっくり手を合わせると、そこから『ぬくもり』が伝わってきた。
人のぬくもり。それは心を落ち着かせ……安心させる。

「……抱え込むな」

ディアッカは、暗示をかけるように呟いた。

「何を悩んでるのか、分かんねーけど……傍に、俺……とか、みんないるから」

合わせた指が絡む。

「一人で苦しむな」

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