リクエストテーマ
「夜は違う二人」


その夜。
身体は疲れているはずなのに、なぜかディアッカは眠れなかった。ベッドでゴロゴロしていても、いたずらに時間が過ぎていくだけ。仕方ないので、残していた仕事を片付けてしまおうと考え、展望室へと向かった。
これは歩く、という動作を加えることで、軽い気分転換も兼ねている。

「……ん?」

角を曲がれば展望室、という所まで来て、彼の目に、見慣れた後ろ姿が飛込んできた。
ピンクの軍服――という時点で、該当者はミリアリア一人しか存在しない。
彼女はぼーっとしながら手すりにつかまり、宇宙の闇を瞳に宿していた。

一瞬、声をかけるのを躊躇うほど。

何か……あったのだろうか。
いや、昼間は別に、変わったところは無かった。
いつもの通りのミリアリアだったのに。
まるで、何か……悩んでいるようだ。

「……ディアッカ?」

そうこうしている内に、彼女の方がディアッカに気が付いた。
ほのかな電飾の光を受ける横顔は、まばゆさすら感じられる。

「どうしたの? そんな所で」
「……お前こそ」

笑顔を向けるミリアリアが儚げに見えるのは、夜という時間帯のせいだろうか。
昼と夜では、艦内の雰囲気がまるで違う。朝日も夕暮れもない宇宙の片隅にありながら、連邦基準にのっとった時刻で動いているため、かりそめの夜が存在する。ゆえに昼間のような賑わいはない。
静かな時間――

「こんな時間に、何やってんだよ」

やりにくさを覚えつつ、ディアッカはミリアリアに近付いた。いつも通りに振る舞おうとしても、どうしてもぎこち無さが残る。
それはミリアリアも同じ様で、

「何って……別に、あんたに関係、ない……」

口調は全く強くなく……どちらかと言えば、弱々しい。

「あんたこそ、何やってんのよ」
「いや、とりたて別に……」
「何それ」
「……そう言われても……」

褐色の指に自らの黄金の髪糸をくぐらせながら、ディアッカは瞳を惑わせた。
沈黙が訪れる。
ひどく居心地の悪い沈黙が。

「……お前を探してた……って言ったら?」
「え……?」

どうにか昼間の雰囲気にもっていけないか……考えた末の苦肉策は、彼女をからかって、少しばかりお怒りになってもらって、気まずい空気を一蹴してもらおう――という、何とも他人任せなものだった。
ミリアリアがしんみりしているから、こんなに気まずい空気なのだ、と。だからこそ、彼女に雰囲気を変えてもらおうと思ったのだが……

「……困る」

ふい、と俯くミリアリア。
場の空気は、ディアッカの考えとは間逆の方へと傾いてしまった。
いつもは本気で言っても冗談としか取ってくれないのに、なぜ、今に限って真面目に取られてしまうのか。
それもまた、仕方の無いことかもしれない。きっと彼女は、今……冗談とか本気とか、そんな線引きすら煩わしい状況にいるのだろう。
だが、普段は冗談としか取ってもらえない言葉を、本気のものと受け止めてもらえたのは……結構嬉しい。

ふう、と一つ、ため息をもらす。

「……らしくないぞ」

居心地の悪さを払拭するのをあきらめたディアッカは、励ますよう呟いて、ミリアリアの隣に歩み寄った。

「らしく、ない?」

途端、ミリアリアの表情が一変する。
眉間にしわを寄せ、真剣な瞳をディアッカに向けた。

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