リクエストテーマ 「ディアッカにミリアリアが嫉妬する話」 「順調?」 両手に紙コップを持って立つ、短い栗色の髪の女性。 彼女は今、ディアッカがOSを書き換えている、M1アストレイのパイロット―― 「マユラ・ラバッツ……だっけ?」 「正解。さすが、名前覚えるの早いわね、エルスマン君」 にこっと笑うマユラの横で、背筋に寒いものが走り、ディアッカは身震いした。 「え? 何? 私、変なこと言った??」 「いや――“エルスマン君”は止めねーか? なんか、アカデミーの鬼教官思い出す……」 「そんなにしごかれたの」 「期待されたエリート候補だったからねえ」 皮肉混じりに、そんな事も言ってみる。 「じゃ……ディアッカ?」 「そっちの方がしっくりくるわ」 「オッケー。てわけで、はい、差し入れ」 「――どーも」 差し出された紙コップを受け取って良いものか――ディアッカは一瞬、考えた。ほどなくミリアリアが戻ってくるだろう。その時、このコップが自分の手元にあったら、彼女はどう思うのか…… しかしディアッカは受け取った。 断るのは礼儀に反するし、ここにミリアリアがやって来たら、受け取らないことに怒り出す可能性もある。 一口だけ飲んで、コップを床に置き、ディアッカはパソコンに戻った。 その横に、マユラが腰を下ろす。 ディアッカは違和感を覚えた。 「……なんで座ってんの?」 少しだけ、眉をひそめて。 「何でって……気になるじゃない。自分の機体の一番大事な部分を任せてるんだから」 「まあ、そうだなあ」 「それとも、邪魔?」 「邪魔っちゃー、邪魔」 「はっきり言うわねー」 怪訝な顔をするディアッカの発言を、マユラはあっさり笑い飛ばす。 「さっき、隣に女の子いたけど? 彼女は良いんだ」 「あいつは特別。……なあ、マジでやり辛いんだけど」 「少しくらい大目にみてよ。本当は……自分でやりたいんだから」 マユラの真剣な瞳に、ディアッカは言葉を失った。 彼女の気持ちは分かる。自分の機体を、自分の知らないところで色々いじられるのは……正直、ディアッカも嫌だ。 しかしマユラに、技能者のスキルは無い。だから誰かに任せるしかないのだ。 歯痒くも。 「……仕方ねーか」 「さっすが同じパイロット! あ、ちょっと教えてほしいんだけど」 「は? 俺今、OSいじってる……」 「そのOSの事で!」 突然マユラから舞い込んだ質問に、最初は迷惑そうな顔をしたディアッカだったが、言葉を交わす内に、そんな感情はどこかへ行っていた。 訊いてることは、パイロットとして持っていた方が良い知識だし、何より話の理解度が早いため、説明しがいがある。 そのせいか――彼は、後ろから刺すように向けられる視線に気付けなかった。 ――ミリアリアの視線に。 |