リクエストテーマ
「ニコルについて語るディアさんとミリ」


「……会えると、良いんだけどな」
「あ……もちろん、戦争が終わってから、ね」

ミリアリアは、自分の言葉がディアッカを困らせてると思い、慌ててフォローを入れた。
作曲者はディアッカの仲間……つまり、ザフトの軍人である。戦争中に会う=戦わなくてはならない。
だからディアッカは困ってると、ミリアリアは考えたのだ。

しかし、彼が困った理由は別にある。
考えて――かんがえて考えて、彼は一言、口にした。

「もう、会えねーんだよ」

出来るだけ、ダメージの小さな言葉を選んで。
言わんとしている事を感じ取ったのだろう。ミリアリアの顔から、血の気が引いた。


ピアノの音が響く。


「……いつ?」

何とかしぼり出したのは、小さな悲鳴。

「いつ……って、なあ……」

まいったなあ、と、ディアッカはミリアリアに目を向けた。
悩み、どう伝えれば良いか模索して……

「俺が投降する、ちょっと前」
「島、で?」
「……そゆこと」

オーブ近海の『島』で、AAはザフトと戦った。ずっとミリアリア達を、AAを狙い追いかけてきた一軍と。それはディアッカのいた部隊であり、彼が投降する少し前、キラが彼の仲間を一人……殺している。

その人物こそ、この曲を作ったひと。

「あいつ……ニコルってゆーんだけど……優しい奴でさ」

天を仰ぎ、寂しそうに。

「俺らの隊の最年少で、考え方甘っちょろい奴で、戦争になんか向かない奴で……」
「…………」
「ずっと、見下してた」

突然発せられた不釣合いな言葉に、ミリアリアは目を見開く。

なぜ――と聞きたかったけど、口を挟む気にはならなかった。
この話を止めてはいけない……そう思って。

だからミリアリアは、耳を傾け続ける。

「虫も殺せねー様な性格のくせに、プラントを守りたいって理由でザフトに入って。成績はまあ……そこそこ良かったけど……それがまたムカついたってゆーか、なんとゆーか……」

静かな、間。
長いようで……一瞬の間の後、

「それでも、やっぱキツイ。死なれるのは」

今度は、はっきりと言った。
それはミリアリアへの気遣いが無くなったのではなく、そこまで考える余裕が無くなっただけ。
別の誰かを頭に置けないほど、今、ディアッカはニコルの事を考えている。

「あんなに……優しい奴だったのにな……」

もう誰も憎むまい。
死んだニコルは、人を憎むことなど望まないから。
……憎しみが、新たな憎しみを生むことを、知ってるから。

「アスランなんか、ひどい取り乱し方してな……なりふり構わなく――」


言って――息を呑んだ。
明らかに失言だ。ここでアスランの事を出すべきじゃない。

だって、それは、

「なりふり構わず、キラを殺そうとした……?」

示される答えは、ミリアリアから放たれた。

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