リクエストテーマ
「ニコルについて語るディアさんとミリ」


耳を澄ませた時、聞こえてきた音。
小さな音は、はかなく、それでいて優しい曲を奏でていた。
ミリアリアの足は、自然と曲の聞こえる方へと誘われる。
辿り着いた先にいたのはラクスとディアッカで……一種独特の雰囲気に、彼女の足はすくんでしまった。


――邪魔しちゃいけない――


そう思って、立ち去ろうとして……ラクスに気付かれた。

「ミリアリア……」

ディアッカと目が合う。
彼の見せる驚きの顔と呟きが、余計ミリアリアに罪悪感を生ませた。

「ご、ごめん! きれいな曲だったから、思わず……ほんと、ごめんっ!!」
「あ――待てって!!」

走り出そうとするミリアリアを、慌ててディアッカは呼び止める。

「聴きたいんだろ? この曲」
「で、も……」
「じゃ、聴いてけよ。ラクス嬢も、ギャラリー多い方が燃えるって言ってるし」
「多すぎるのは困りますけど」

にこりと笑いながら、ディアッカに釘を刺しつつ、ラクスは立ち上がった。
立って、ミリアリアと向かい合って。

「この曲を気に入ってくださったなら……ぜひ聴いていってほしいですわ」

微笑を向けられても、ミリアリアは遠慮がちになってしまう。

「……良いんですか?」
「本人が良いっつってんだから。ほら、こっち来いって!」

しぶしぶ……本当に渋々、ミリアリアは階段を降り始める。
彼女は気を利かせ、ディアッカから少し離れた所に座ったのだが、そうしたらムッとしたディアッカが、わざわざミリアリアの横に腰を下ろした。

「何でこんな、中途半端に離れようとするんだよ」
「だって……お邪魔じゃないの」
「何のだよ」
「自分で考えなさいよ」

目を据わらせるディアッカ。彼には何が「お邪魔」なのか、見当がつかない。
一方ミリアリアは、変にとぼけるディアッカの態度が腹立たしく感じた。
二人の間に、少しだけ険悪な空気が流れ出す。
それを破ったのは、ラクスの奏で出すピアノの音だった。

強く、優しく、はかない調べ。

その旋律に、二人は聴き惚れる。

「なんか……あったかい曲だね」
「だろ? すごく好きなんだ、これ」
「プラントじゃ、有名な曲なの?」
「いや……俺の友人……つーか、仲間が作った曲」

一瞬――ほんの一瞬、ラクスの演奏が乱れた。
二人が気付かないほど――小さな乱れ。

「すごいわね、こんな曲作れるなんて。あんたの周りって、実はすごい人ばっかじゃない」
「まーなー……って、俺も十分すごい人に入ってんだけど」
「はいはい。プラントじゃすごい人なのねー」
「プラント限定かよ……」

あまりの扱いの悪さに、ディアッカは肩を落とし――そんな姿を気にかけることすらしないミリアリアから、できれば触れて欲しくない一言が出た。

「作った人……きっと、とても素敵な人なんだろうね。会ってみたいなー」

手を組み、目を輝かせるミリアリア。


会ってみたい。


たった一言が、ディアッカの背中に圧しかかった。

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