リクエストテーマ 「お互いに惹かれあうディアミリ」 止まる世界。 二人は――固まっていた。 互いの指先が触れて。 二人とも、指先に全神経を集中させている。 軽く触れ合っているだけなのに―― 「…………」 ふとミリアリアが、顔を上げた。何も言わず、ただ、目の前の少年を見る。 ディアッカも、視線に気がつき顔を上げた。 不思議な静寂が訪れる。 いつまで続くかと思われた沈黙……均衡を破ったのは、ディアッカ。 手が動く。 それはきっと、無意識のものだろう。 片手は彼女の指に触れたまま、もう片方の手が――頬に伸びる。 「ちょっ……!!」 目尻に指が触れ、ミリアリアは飛びのいた。 彼女は驚き、ディアッカもまた呆然と、ミリアリアを見る。 「……な、にするのよ……」 速すぎる心音すらも聞こえないほど動揺したミリアリアは、何とか抗議の意を搾り出した。それでもディアッカは、未だ自分のした事の大きさを掴むことが出来ない。 「何って……別に」 「別にって……」 赤くなったミリアリアの顔が、倍掛け以上の赤味を帯びる。 これ以上――ここにいちゃダメ!! 彼女は、脳が発する警告に従った。 「じゃ、じゃあ、ね!」 「――あ!」 トレイを持ち、拘禁室を走り出る。 残されたディアッカは、呆然と扉を眺めていた。ミリアリアの姿を吸い込んだ拘禁室の扉と、彼女を呼び止めようとして差し出た手――自然と目は、自分の両手に移る。 ミリアリアに触れた、手。 自分は一体、何をしようとしていたのか。 それはミリアリアも同じ事。 「……あいつ……何考えてるの?」 彼の指は、頬に触れたあの指は、耳に流れようとしていた。 ――その後は? 扉に背をあずけ、へなへなとその場にしゃがみ込み、想像された『その後』と、何より『その後』のことを考えてしまった自分を憤る。 ――トールが死んで、まだ間もないのに。 しかもディアッカは『敵』であり、ミリアリアが傷つけてしまった人。 好意を抱く対象にしては、いけない人。 そもそも――自分を殺そうとした人間に対し、そう易々と好意の感情を抱けるだろうか。 つきん、と痛みが走る。 ミリアリアの心に。 ディアッカの心に。 「バッカだなー……」 普段は他人に使っている言葉を、珍しくディアッカは、自分に向けて使った。 それほどまでに、馬鹿気た事をした……と反省する。 相手は恋人を亡くしたばかりで、しかも自分の言葉で、抱かなくても良い殺意まで思い知らされた少女。 彼女がここに来るのは、自責の念からだろう。 自分を傷つけた負い目があるから、せめて食事くらいは運んでやろう……ディアッカはミリアリアの行動理由を、そう位置付けている。 彼女が自分に、特別な感情を抱くことはありえない――と。 「……痛ぇ……」 「……ぃた……」 胸を刺す、針のような傷み。 それは……叶わぬ想いを封じ込めるためか。 ――心を近づけてはいけない人。 ――心を寄せてはいけない子。 分かっているのに。 ――それでも二人は惹かれあう―― |