リクエストテーマ
「超ドキドキするミリィ」


「コーディネーターなんだから、ドライヤーくらい直せるんじゃないの?」
「そりゃ直せるけどよ、ここんとこ立て込んでて、直す暇が全く無かった」
「あのね……」

きっぱりと言い放つディアッカを見て、ミリアリアもまた、正論を言った。

「直せるならさっさと直しなさいよ。風邪ひいたら――」

言う最中――わしわしと動かしていた手が止まる。


ふわり、と感じるほのかな香り。
良い匂いだ……と彼女は思った。


何故今まで気付かなかったのか……それはディアッカから放たれる、シャンプーの香り。

頭がぼーっとする。


「……どうした?」
「え?」

突然手が止まったことを不思議がるディアッカの声が、ミリアリアの意識を現実世界へ戻した。

椅子に座るディアッカと、立って頭を拭くミリアリア。
ゆえに彼の目線は、おのずと上に向けられる。


見上げる綺麗な蓮色の瞳。
そこに映る彼女は――顔を赤らめている。


――なんで?!


何より自分の顔が赤いことが信じられず、彼女はその身をディアッカから離した。

逃げるように。

すばやいミリアリアの動きは、ディアッカの目を点にするのに十分だった。
次いで来るのは――不信感。

「……俺、なんかした?」
「え? あ、何も……」

赤い顔を隠すように、横を向くミリアリア。
それを――ディアッカが追う。

「じゃ、何で逃げんの」

顔を覆う彼女の手を、ディアッカは無理に剥ぎ取った。
赤く染まる頬、潤む瞳……それら全てが、蓮色の宝石に映し出される。


どくん。


心臓から放たれる重低音が、彼女の身体を駆け巡る。

「――ミリアリア?」

問いかけるような声。
しかし、決して問うているわけではない。

探ってる――

彼女の真意を。
決して本心を言わないことなど、分かりきったことだから。

そしてミリアリアも、ディアッカの思惑を理解している。

「手、痛いよ」
「ああ、悪い」

言われ、手を離したディアッカは――その隙をついて距離をとろうとするミリアリアを逃がすことなく、今度は彼女の二の腕を掴んだ。

「ちょっと、どこ触って――」
「――痩せた?」

文句と質問が同時に飛び交う。
今度はミリアリアの目が点になった。
何故に今、ここで、そんな話が出るのか分からない。二の腕を掴んで、そう感じたのだろうか。

言われてみれば……少し痩せたような気もする。本人すら気付かない身体の事情を、どうしてディアッカに教えられるのだろう、と思った。

思って、考えて、出した結論。
つまり――それだけ自分はディアッカに見られている?


〈うわあぁぁ……〉


事実を認識した瞬間、心臓は今まで以上の速さで動き始めた。

鼓動が止まらない。

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