リクエストテーマ
「シェフのオススメ」


「……ねえ」
「あ?」

二回戦い、連勝中のミリアリア。しかしこれは、ディアッカの退屈しのぎだった……はず。

彼女は不思議だった。
負け続けるディアッカから、文句が全くでないのが。
だから、聞いてみた。

「……楽しい?」
「すごく」
「……負けてるのに?」
「悔しいっちゃー悔しいかな」

とは言うものの、ディアッカに悔しさなどあるはずが無い。


なんせ――わざと負けているのだから。


これは全て、ちょっとでもミリアリアに食べてもらうためのゲーム。
実は前二回とも、彼女の指す反対が正解だったのだが、手を開く過程で、クッキーの表裏を反対にしていたのだ。
そして今回も――

「裏にしとく」

ミリアリアが選んだのは、裏。
でも正解は……表。

手の中では表面を見せているクッキーを、ディアッカは器用に裏返した。

「裏うらー……お、本当に裏だった。あんた強いねー」

言いながらディアッカは、クッキーをミリアリアに渡す。
彼女が不正に気づいている気配は……ない。

大きなため息をつき、ミリアリアは仕方なく、最後の一枚を口にする。
何で自分が食べているのか……不満全開にディアッカを見ると、紫の瞳と目が合った。
優し気な表情。

「……なによ」
「んー? 食べてる姿も可愛いなーと思って」
「!!!!」

それは本気か冗談か。
彼女は思いがけぬ一言にびっくりし、むせてしまった。

「あ、おい、大丈夫か? ほら……」

とっさにディアッカは、手元にあったコップを手渡した。
彼女はすぐさま、お茶を喉に流し込む。


静まり返る拘禁室。


「悪ぃ……大丈夫か?」

響くディアッカの声。
――自分のせい、という自覚はあるらしい。

「……大丈夫」

彼女は、涙目でディアッカを睨んだ。

「もうクッキーは無いし、十分楽しんだわよね?」
「……おう」
「じゃ、私、戻るから」
「待――」

立ち上がり、歩き出そうとするミリアリアの手を、再度ディアッカが掴み、止めた。

「……なに?」
「さっきの――本気だから」

さっきの。
それはディアッカがミリアリアをむせさせた言葉。

――食べてる姿も可愛い――

彼が指し示す言葉を見つけると、瞬く間にミリアリアの顔は赤くなった。

「あ――何バカなこと言ってんのよ!!」

困り果てた末、苦し紛れの捨て台詞を残し、彼女は拘禁室を走り出る。

そして残されたディアッカは――
これまた顔を赤くして、硬いベッドに寝転んだ。
口を押さえて。

ディアッカは別に、彼女に対して言った台詞に赤面しているわけではない。


ミリアリアがむせた時、差し出したコップ……それはディアッカが一度口につけたもの。

つまりこれは――

「たかが間接キスで、なに喜んでんだよ……」

しかもされた方なのに。
それでも、顔の火照りは引くところを知らない――





-end-


結びに一言
……これ、シェフのオススメ……?
初期段階では、ミリィさんがわざわざお食事作ってディアさんに差し入れる……とゆーお話でした(汗)

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