リクエストテーマ
「シェフのオススメ」


ディアッカは丸いクッキーを一枚取ると、突然真上に放り投げ、空中で掴んだ。
そのまま、握る右手をミリアリアに差し出し、

「表か裏か、当ててみ?」
「……なにそれ」

続けて出た言葉に、ミリアリアは眉をひそめた。
だがディアッカはめげない。

「模様がある方が表、無い方が裏。当たったら、このクッキーはお前が食べる。外れたら俺が食う。そーゆーゲームしようっての」
「私、今ちょっと……」
「付き合うっつったろ? それとも――逃げるか?」
「……なんですって?」

ミリアリアとの付き合いは――長くない。むしろ短すぎる。
しかしディアッカ、彼女を挑発する方法だけは心得ていた。
こう言えば、ミリアリアが引くはずが無い、と。

「やってやろうじゃない!」

案の定、ミリアリアはノッてくる。
クッキーの軌道を思い出し、真剣に考え……

「表!」
「さあて、どっちかなー?」

ゆっくり手を開くディアッカ。そこには、模様のくっきり描かれた面がある。

「やった!」
「ほい、おめっとさん。あんたの取り分」
「は?」

一瞬、何を言われているのか分からず呆けるミリアリア。そのチャンスをディアッカは逃さない。
すばやくクッキーを持ち変えると、開かれた彼女の口に入れてしまった。

「!!」
「おお、なかなか上手いじゃん」

指に付いたクッキーのカスを舐め、味の感想を口に出すディアッカ。その姿を前にミリアリアは……顔を真っ赤にしたまま、もぐもぐとクッキーを食していた。
さすがに、口に入れたものを出すのは忍びない。
文句が出たのは、しっかり最後まで味わい、全てを飲み込んでから。

「あんた、何考えて――」
「あーはいはい。じゃ、二回戦いくぞー」

ミリアリアの言葉など総無視で、ディアッカは再びクッキーを放り投げる。

「さ、どっちだ?」
「…………」

彼女は何か……理不尽なものを感じていた。
何故こうなる?

「お茶でも飲んで落ち着くか?」
「いらない」
「そ」

差し出されたお茶をはね除け、ミリアリアはディアッカの手を見る。
すごく理不尽だが、逃げたくはない。
一方でディアッカは、彼女が思案する間、突っぱねられたお茶を飲みながら――ひとりミリアリアの観察会などを始めていた。

はねる赤茶の髪。海と同じ色の瞳。彼の感覚で言えば、彼女は可愛い部類に入る。
だが何よりも目を引くのは、軍人なのに、軍人らしからぬ行動。
ディアッカにとってミリアリアは、ひどく興味深い存在だった。

どうも気になる。姿形以上に――内面が。
何故彼女が軍属なのか……不思議でしょうがない。

〈聞いても……教えちゃくれないんだろうな……〉

自嘲気味に思った時だ。

「……じゃ、今度は裏」
「……裏、ね」

ミリアリアの声で現実世界に意識を戻したディアッカは、これまたゆっくり手を開いた。
模様は――無い。裏だ。

「おお、二連勝じゃねーか。ほい、あーん」
「〜〜自分で食べるっ!!」

よほど食べさせられたのが嫌だったのか、彼女はディアッカからクッキーを奪うと、勢いよく口の中に入れた。

「これで終わり――」
「――じゃ、三回せーん」

隙を与えず、ディアッカ、勝手に三回戦を開始。

「ちょっと……もういいじゃない!」
「最後の一枚じゃねーか。もう少し付き合ってくれたって良いだろ?」
「う……」

反論しようとしても、良い方法が思いつかない。
一人じゃ退屈そう……そう言ったのは、他でもないミリアリア本人なのだから。

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