アスラン×カガリ
二人の思いが通じる瞬間



そして、現在に至る。
二人がいるのは、エレベーター乗降口一階、乗り場のすぐ傍にある裏手の庭。
紺色の空に、金色の月が光を放つ。

「ごめん、キラ。お前、忙しいのに……」

謝りながら、カガリは目を閉じる。
どうかしていた。
キラだってたくさん仕事はあるのに、そんな中、無理矢理連れ出してしまうなんて。

「良いよ。僕自身は、忙しいとか、そんなことないし」
「でも、テストとか言ってなかったか?」
「あれは……試乗運行のこと。僕じゃなくても出来ることだよ。大丈夫」

優しく言って、キラはカガリの隣に座る。

「それより、カガリの方が心配だよ」
「…………」
「……アスランが君を嫌い、なんて……どうしてそんなこと考えるの?」
「だって、さっきのあの態度は……」

小さく、声を絞り出す。
アスランが、あそこまで格納庫に来ることを拒む理由は何か――と考えたら、これが一番簡単な答えではないか。
嫌っている。嫌われている。
けれど、キラは首を振る。

「そんなこと……絶対無い!!」
「……どうして?」
「ッ……そ、れは……!」

不思議そうに、カガリが問う。
けれどそんなこと、キラに答えられはしない。アスランを思えばこそ、彼が一体、どんな気持ちでカガリに冷たく当たったか……知っているからこそ、おいそれと口に出来ない状況にあった。
どう取り繕えば良いか分からず、目を伏せる。

と――その時、ふと、キラの意識は背後に向けられた。そのまま安堵のため息をつくと、まるで尋問するように言葉を紡ぎ出す。

「ねえ、カガリ。何でさっき、あんなこと言ったの?」
「あんなこと?」

キラを見ることなく、カガリは問い返す。
その視線を、月に注いで。

「ほら、変なこと言ってたでしょ? 僕を渡さないとかなんとか……あれじゃアスラン、誤解しちゃうよ?」
「……誤解、すれば良いんだ」

背を向けたまま、カガリは肩を落とした。

「私のこと、なんとも思ってないなら……変な誤解でもかけた方が、私のこと、気にかけてくれるかもしれない……」

言って、恥かしくなってしまう。
それは今だからこそ、少しだけ冷静になったからこそ分かること。



――アスランの気を、ちょっとでも良いから引きたかった――



「口に出したことなんて無いけど、私は、アスランのことが……好きで、あいつも私のこと、好きでいてくれてると思ってた。けど……違った。あいつは私を、オーブの姫君と思ってなかったんだ」
「そんなこと……」
「じゃなかったら、格納庫に入っただけで、あんな態度とるもんか」

今までもきっと、たくさん迷惑かけてきたのだろう。けどアスランは、それを言わないで来た。自分を守ろうとしてくれたのか、あるいは立場的なものか……どちらにしろ、今日はもう、そんなフォローをすることも出来なくなっていて。

「ほら、今あいつが一番大事にしてる人間に関わればさ、興味の度合いも変わってくるだろ?」

恋なんてしたこと無いし、周りでそんな話題を与えてくれる人もいなかったから、どうやって意中の相手に、自分を見つけさせれば良いのか分からない。
どうすれば、アスランは私を気にかける?
少しでも自分を、意識してくれる?

これじゃまるで……子供の飯事じゃないか。
でも、本当に。
どうして良いのか分からない。
姿を思い浮かべるだけで、こんなに心は焦がれるのに……


「あーあ。でもこれじゃ、逆にもっと嫌われるかな――」


刹那、カガリの身体は温かなぬくもりに包まれた。
大きな力が彼女の自由を束縛する。



「ごめん」



小さな声が、耳を通り抜ける。
それは、二人を追って来たアスランの温もりだった。

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