サンタ系パロディシリアス小説。
ディアッカ=サンタ、ミリアリア=市民でお届けします


「……どうして鈴蘭なの?」

今度はサンタさんが驚きました。きっと、いらない、とつき返される……そう思っていたためです。
それでもミリアリアの問いかけに、サンタさんは自信を持って言いました。

「似合うと思ったから」


――ミリィは素朴な花の方が似合うよな。例えば、鈴蘭とか――


それは、亡くなった恋人の声。
遠くない過去、奪われた恋人が紡いだ言葉が、脳裏に響きます。

「ほら……あんたこうやって生きてるんだから、恋人の分まで生きてやらなきゃ」
「…………」

言われなくても、彼女はちゃんと分かっています。恋人が、こんな自分の姿を望むわけがないのですから。
だけど、そんな理屈が通用しないほど、彼女の心は病んでいたのです。

どうしようもないことと、あきらめたくなります。

人の心は……簡単に想いを動かせるほど、簡単なものではないと、分かっていて、だからこそ人の『想い』は、とても強い力を生みだす。
サンタさんはそれを、よく知っています。
だから、強要はしません。しませんが――彼女があきらめないよう、道を作りました。

「まあ……出会った記念って事でさ、大事に育ててやってよ」
「…………私、が?」
「他に誰がいるの」

サンタさんは言い切りました。

「これで、日課が出来たな」
「あ……」

花を育てると言うことは、そう簡単なことではありません。
花も命の一つ。生きられる環境が無ければ、簡単に枯れてしまいます。

「花、枯らしてないか……毎日見に来るからな」

気付くとサンタさんは、窓辺に立っていました。
そして――ベランダから飛び降りてしまいます。
ミリアリアの部屋は、三階にあたります。そんな高さから落ちたら、怪我どころの話じゃすみません。


「あ――れ?」

慌て、ベランダの下に目を向けましたが、サンタさんの姿は見えませんでした。
まるで雪のように、消えてしまったサンタさん。
代わりに、どこからともなくベルの音が聞こえてきます。

「お仕事に……戻ったんだ……」

サンタさんのソリの音……そう解釈したミリアリアは、未だ自分の手の中にある鈴蘭を見ました。


どことなく儚さを感じる花。
これから、彼女が育てる花。


「……毎日来るって……言ってたよね?」

今日、初めて会ったサンタさん。
毎日来ると言ったサンタさん。
生きる欲求すら失いかけていたミリアリアの心に、あたたかいものが灯りました。
それを何と表現するのか、今の彼女には分かりません。
永らく感じていなかったために、その名を忘れてしまっていたのです。


彼女が思い出すのは、もう少し先のこと。
それが「嬉しい」という名の感情だと――





-end-

結びに一言
童話チックにしたくて、こんな感じに。パロ書くのって面白いと気付かせてくれた一本です。

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