リクエストテーマ
「アスカガ」



彼は――アスランは、自分の名を捨てた。
否、捨てたという表現は間違っているかもしれない。カガリの傍で生きるため、自らの名を変えたのだ。


彼はもう、ザフトのアスラン・ザラではない。
アレックス・ディノという、オーブの統治者となったカガリのボディーガードである。

彼の仕事は、一にも二にも「カガリの安全」を守ること。一国の統治者となれば、その身は一般人よりも危険にさらされやすく、事実、今日もとあるパーティーの列席中――彼女が標的になったわけではないが――武装集団による襲撃に巻き込まれ、危うい状況に追い込まれた。
カガリのドレスには、赤いシミが幾カ所にもついている。


アスランが……いや、アレックス・ディノが、身を挺して守ったから。
その代償として、彼は右腕を負傷した。滴る血はカガリのドレスだけでなく、自らの白き装束も染め、赤い花を幾重に咲かせる。
惨劇と言って良いだろう。だからこそ気が動転する。
確かに、今まで命の危険など――それこそ、数え切れないほど遭遇してきた。しかし、どれほどの危険を前にしても、アスランが傷つくことなど、ほとんど無かった。遠い記憶を探っても、片手の指だけで事足りてしまうほどのことだったのに。
特にこんな……目に見えた大けがなど、想像すらしたことが無くて。

泣いてしまった。
泣きながら止血しようとして。
大丈夫だから、と怪我している本人になだめられて。


「……情けないな、私は」


つぶやくカガリの瞳が向かう、アスランの腕。
痛々しい右腕を見ながら、無事な左腕に触れ、うつむく。

「我を見失って、一国の長という立場も忘れるし、お前の悩みも気づけない……」
「悩みなんて、大そうなもんじゃないさ。ただ、まだ慣れてないってだけで」
「それでも、そうさせているのは私じゃないか」
「……悲観的に取らないでくれ、カガリ。俺は結構気に入ってるんだぞ? アレックス・ディノという人生を」




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