リクエストテーマ
「ディアミリデート」


ちなみに着いた当初の「険悪なムード」は、すぐ様消えてなくなった。
二人が休憩を挟まず乗った三つのアトラクションが、そんな気配を吹っ飛ばしてくれた……というか。

「……ちょっと、ディアッカ、ペース速い……」
「そうか? まだ三本目じゃん」
「……ぶっ続けで三本は効くわよー……」

倒れるように、ミリアリアはベンチに座り込んだ。
入園して乗った三つの乗り物、それらは全てジェットコースターだったのである。ミリアリア本人より、絶叫系が好き――という発言を受けてのコースだったが、好きとは言っても、休み無しに三つ一気に乗れるほど、彼女の心臓は絶叫マシーンに慣れていなかった。

「もうちょっと、ゆっくり行こうよ」
「ミリアリア様の仰せのままに。あ、何か飲み物買ってくるか?」
「炭酸お願い」

ただ一言のリクエストを受け、ディアッカは売店へと歩き出す。
残されたミリアリアは、ひたすらうな垂れていた。ディアッカの悪びた冗談にすらツッコミを入れられないほど、彼女の精神は疲弊している。

ジェットコースターで疲れたから――だけではない。


〈……だめ〉


考えない様にしている事が、頭の中をうろついている。
周りの雑踏は遠のき、彼女は一人、自分の精神世界に入り込み始めた。

音の無い世界で蘇る記憶――それは、とある約束。

悲しい約束。


遠くない過去、愛すべき人と交わした約束。



〈――戦争が終わったら――〉



果たされなかった約束。


「なぁ〜に暗い顔してんだよ」
「たッ!!」

考え事をしていたミリアリアの頭で、突如、コン、と音が響いた。
それは、アルミ缶を乗せられた音。
戻ってきたディアッカが、彼女の頭に買ってきた缶ジュースを置いたのだ。

ちょっとだけ、力を込めて。

「いった〜……何するのよ!」
「つまんなそうな顔してるお前が悪い」
「つまんなくなんか――」
「本当に?」

怪訝な顔をするディアッカに、ミリアリアは息を呑んだ。

つまらなくはない。ジェットコースター三連撃は疲れたけど、それはそれで楽しかった。
楽しい――のに。

心を過ぎる迷いを、告げることが出来ない。

見詰め合う中、ディアッカは突然、大きなため息をもらした。
そして一言。

「トール関係有り、だろ」
「う」

虚を突かれ、ミリアリアは思わず呻きをもらす。そんな彼女の心境などそっちのけ、ディアッカは核心部分を一突きしてくれた。

「戦争終わったら遊園地にでも遊びに行こう〜、とかって約束してたんだろ?」
「何で知ってるのよ!!」
「見れば分かるって」
「……ううう」

見抜かれている。
全て見抜かれている。
何故この男は、知られまいと必死で隠している事柄まで、あっさり読み取ってしまうのか。

「……トールのこと、遠慮しないで良いって言ってんじゃん」
「……でも……」

それは、二人が同じ時間を共有すると決めた時、ディアッカが言った事。
彼は許してくれた。心の中に、トールがいることを。

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