リクエストテーマ
「ラブラブバカップルディアミリ」


〈……良いもんだよなー……〉


テーブルに頬杖を付き、厨房を眺めるディアッカは、呆然とそんな事を考えていた。
厨房でせかせかと動くミリアリア。彼女は今、自分のために料理をしている……そう考えるだけで、すごく胸が熱くなる。

きっと料理じゃなくても……彼女が自分のために何かをしてくれれば、それは大いな歓びとなるだろう。
何よりも、自分の頼み事を――半ば無理矢理とは言え、聞いてくれた事がすごく嬉しい。

特に、料理というものがまた、ディアッカの心をそそらせる。
家庭的な姿を前に、彼の妄想は膨らむ一方だ。


〈……ホント、可愛いなぁ……〉


自然と顔はにやけてしまう。
料理なんかほったらかして、新婚さんごっこになだれ込みたい――そんな危ない考えすら浮かび始めた時だった。


「あれ?」


シュンッ、と扉が開き、サイが食堂にやってくる。

「よお、サイ。どうした?」
「のどが渇いたからお茶でもって……二人だけ?」
「おお」

呑気に交わされる二人の会話。その一方で、離れた所から話を聞いているミリアリアは、内心ハラハラしていた。
サイにもし、このエプロンが見られたら。


――恥ずかしすぎて、どうにかなってしまうかもしれない。


〈サイがこっちに来ませんように来ませんように来ませんように来ませんように来ませんように〉


そんな願い、かけても無駄なのに。
分かっていても、願わずにはいられなかった。

「ミリィが作ってるの?」
「う、うん」

だからカウンター側まで来たサイに、決して振り向くことなく、背中を向けたまま答える。

「何作ってるんだ?」
「パンケーキ……おやつ代わりにでもって思って……」
「……ふぅん……」

声が、いぶかしげるものに変わっていく。

「……ミリィ、どうしてこっち向かないの?」
「そ、そりゃ、料理中だし……」

このまま誤魔化しきろう。そう、決意を固め――

「見せてやれよ、ミリアリア。俺のこと、どんだけ好きか」


――うっかり、この場にディアッカが居ることの重大性を忘れ去ってしまっていた。


ディアッカが居るのだ、ここには。ディアッカがいるのだから、彼が丹精込めて作ったエプロンに話題を降らない筈は無いのに。

「見せるって、どうやって?」
「あのエプロンにな、書いてあるんだよ。俺のこと好きって」
「〜〜〜〜!!」

振り向きたかった。振り向いて、おたまの一つでも投げつけてやりたかった。でも、そんな事をしたらサイにこの刺繍を見られるし……なんかもう、ほとんどバレたも同じだから、見られようが見られまいが同じ気はするが、それでもやっぱり、この姿をさらしたくは無い。
今更ながら、着た事に後悔してしまう。


我慢我慢。
我慢が大事だ。
深呼吸して。
心を落ち着けて。


「好きって……ディアッカを好きって??」
「そう。ミリアリアが俺を想いながら、一針ひと針、丁寧に……」
「――あんたが自分でつけたんでしょーが!!」

落ち着いた瞬間に飛び交った誤報で、ミリアリアは叫んでしまった。

――振り向き様。

「……ぅわあ」

エプロンを見た瞬間、サイの動きが止まった。
ディアッカは……何故だかすごい喜びようである。

「……なかなか勇気あるね……ミリアリア……」
「う……こ、これは……」

さすがに、精神的ダメージは強烈だ。
文字部分を隠してはみるが、見られた事実は変わらない。

穴があったら入りたい。
本気でそう考えて――はた、とあることに気がついた。

鼻腔をくすぐる、おかしな匂い。

「ミリィ、後ろ――」

見なくても分かる。
それは、焦げた匂い。

振り向けば、黒い煙が上り始めた所だった。

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